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オペラ映像「魔笛」「魔弾の射手」「エトワール」「アムレット」「スティッフェリオ」「第1回十字軍のロンバルディア人」

 2020年正月。テレビのお笑い番組を追いかけながらごろごろしている。年末にみたミルクボーイの「コーンフレーク」と「もなか」は最高におもしろかった。昨日、「ビンゴ」を見たが、これも笑い転げた。

 そうこうしながら、年末年始にかけて、オペラ映像も何本か見た。簡単な感想を記す。

 

モーツァルト 「魔笛」 2018年 ザルツブルク祝祭大劇場

 リディア・スタイアーの演出は、もともとのセリフのほとんどをカットして、台本にはないお爺さんを登場させ、台本にはないセリフをたくさん作って、新たな人物によってストーリーを再編成している。お爺さんが子どもたちにお話を話して聞かせるが、それが「魔笛」の話になっており、子どもたちは、その話に三人の少年として参加する。

 子供たちのヒステリックな母親が夜の女王、パパゲーノは出入りの肉屋の息子、タミーノはほっぺたを赤く塗った軍服姿の男性として登場。ただこうすることで、「魔笛」(いうまでもなく、とても謎の多い台本だ!)についての新たな解釈が示されるわけではなく、ただ単に混乱させただけと私には思える。私の最も嫌いなタイプの演出だ。

 演奏は、演出に比べるとずっといいと思う。こんな演出で歌うのが気の毒に思える。タミーノのマウロ・ペーター、パミーナのクリスティアーネ・カルクはとてもきれいな声。三人の侍女もそろっていて、とてもいい。ただ、パパゲーノのアダム・プラチェトカもしっかりと歌っているが、パパゲーノにふさわしい軽妙さはまったくない。

 ザラストロのマティアス・ゲルネはこの役にふさわしい声が出ていないように思う。夜の女王のアルビナ・シャギムラトヴァは美しい声だし、音程はしっかりしているが、躍動感に欠ける。とはいえ、全員が顔の識別がつかないほどに化粧を施しており、あれこれの演技をしているので、声の面での私が感じる不満は、もしかしたら演出意図によるものかもしれない。

 コンスタンティノス・カリディスの指揮するウィーン・フィルはぞくぞくするほど素晴らしい。序曲の躍動感といかがわしさを予感させる響きはみごと。

 ただ私としては、このような演出は勘弁してほしいと思うばかりだ。

 

ウェーバー 「魔弾の射手」2017年 ミラノ、スカラ座

 台本のせいで、「魔弾の射手」はどうしても学芸会じみてしまうのだが、この上演はまったくそんなことはない。隠者が突然現れて不自然といえば不自然だが、全体的には一つの怪奇な物語として十分にドラマティックな展開を楽しめる。

 歌手陣が充実している。圧倒的な存在感を示すのが、カスパールを歌うギュンター・グロイスベックだ。顔だけではグロイスベックだとはわからなかったが、声を聴いて納得。彼の存在のゆえにこのオペラがリアルなものになっているといっていいだろう。

 アガーテのユリア・クライターも澄んだ声で明瞭に歌って素晴らしい。エンヒェンのエーファ・リーバウもとてもチャーミング。マックスのミヒャエル・ケーニヒも声はいいが、体形のせいもあって、演技が少々間が抜けているように見えてしまう。

 それよりなにより、やはりチョン・ミョンフンの指揮がいい。力感があり、時におどろおどろしく、しかも抒情的。それを見事に使い分けて音楽を展開していく。マティアス・ハルトマンの演出も、変にいじくらずにわかりやすくてドラマを盛り上げる。

 

シャブリエ 「エトワール」 2014年 アムステルダム、オランダ国立歌劇場

 昔、LDだったか、このオペラの映像をみた記憶があるが、内容的については覚えていない。ほとんど初めてこのオペラを知ったに等しい。とても楽しめた。

 ラズリを歌うステファニー・ドゥストラックは声もしっかりしているし、若い男性を見事に演じて見事。ウフ王のクリストフ・モルターニュも軽妙でいい。王女ラウラのエレーヌ・ギュメットも可憐でちょっとはすっぱな王女にふさわしい。そのほかすべての人物が芸達者で声もいい。

 そして何よりも、今回もまたローラン・ペリーの演出に圧倒される。ペリーの手にかかれば魔法のようにあらゆるオペラが軽妙で楽しくて生き生きとしたものになる。色彩感にあふれ、躍動にあふれ、エスプリにあふれていて、文句なし。

 パトリック・フルニリエの指揮するハーグ・レジデンティ管弦楽団も不満はなかった。

 

トマ 「アムレット」2018年 パリ、オペラ=コミーク座

「ハムレット」の物語だが、フランス語なので「アムレット」と発音するべきだろう。少し前、キーンリサイドとデセイの歌った映像をみて、素晴らしいと思ったが、この映像もそれに劣らない。アムレットのステファン・デグーの知的なアムレットもいいが、何とも驚くほどに素晴らしいのが、オフェリのサビーヌ・ドゥヴィエル。姿かたちも清純で可憐であまりに美しく、まさにオフィーリア。歌唱も透明で美しい。高音の美しさもデセイに劣らない。このところ、容姿端麗で歌唱も素晴らしい女性歌手たちを何人も見たが、このドゥヴィエルはその典型といえるかもしれない。

 そのほか、クローディアスのローラン・アルヴァロ、ジェルトリュードのシルヴィ・ブリュネ=グルポゾ、ラエルト(レアティース)のジュリアン・ベールなど、すべての役がそろっている。

 ルイ・ラングレの指揮によるシャンゼリゼ管弦楽団も、見事にトマの音楽をドラマティックに再現してくれている。人間の深みは描かれないままハッピーエンドに終わるので、シェークスピアの「ハムレット」とは異なるが、それはそれでとても面白い。シリル・テストの演出は、登場人物は全員、現代の衣装で、巨大な映像を舞台上に映し出して表情などを見せるものだが、特に違和感はなく、映画のようなリアリティを持ってみることができた。

 アンブロワーズ・トマの「アムレット」というオペラ、とてもおもしろい。まだ私は実演をみたことがない。上演の機会を待ちたい。

 

ヴェルディ 「スティッフェリオ」2017年 ファルネーゼ劇場 (ヴェルディ音楽祭)

 カトレーン・クズミク・ハンゼルによる比較校訂版によるという。

 まず、グラハム・ヴィックの演出に驚く。だだっ広い広間。その中に数か所、机をいくつか合わせたような感じでステージが作られている。広間に観客がぞろぞろと入ってくるが、観客は何が起こっているのかわからずにいる。しばらくすると、ステージの上で男女が体を重ねて愛撫を始める。そうして、音楽が始まり、ステージの人物たちが歌い始めて、やっとそこがオペラの舞台になっていること、観客は立ったままそれをみることに気づく。要するに、舞台があり、それを観客が離れたところからみるというのではなく、広間にステージが複数あり、それを観客が取り囲んでみるという形になっている。現在でも、日常の中でも起こる出来事としてオペラが今、作られていく実感を得ることができる。おもしろい試みではある。

 ただ、観客は立ってみなければならないので、私のように腰痛に悩む人間にはかなりつらそう。しかも、ステージの上だけでなく、観客の横でも小さな演技が行われ、合唱団が配されているので、落ち着かない。

 演奏はとてもいい。歌手陣はそろっている。スティッフェリオのルチアーノ・ガンチは素晴らしい。張りのある美声。妻に浮気されて怒りの燃えながらも神に従おうとする牧師を見事に演じている。妻のリーナを演じるマリア・カッツァラーヴァも、庶民的な風貌だけに一層リアルに感情が伝わる。声も力がある。スタンカー伯爵のフランチェスコ・ランドルフィもラファエーレのジョヴァンニ・サーラも申し分ない。

 グリエルモ・ガルシア・カルヴォの指揮によるボローニャ市立歌劇場管弦楽団は、いかにもヴェルディらしい芯の強いきびきびした演奏をする。このようなオーケストラによって、牧師の葛藤が描かれると、とても感情がストレートに伝わって心地いい。初めてこのオペラに触れたが、十分に楽しめた。

 

ヴェルディ 「第1回十字軍のロンバルディア人」2018年 トリノ・レッジョ劇場

 初めて、このオペラの映像をみた。イスラム教徒への一方的な暴力に対する抗議を示すオペラであって、ストーリー的にもとても説得力がある。音楽もおもしろかった。中世を舞台上に再現しており、歌手陣も充実している。

 ジゼルダ役のアンジェラ・ミードが圧倒的な歌唱と存在感を示す。モンセラット・カバリエもこのようだったのではないかと思わせるほど。初め、体形を見てげんなりしていたが、声を聴くと、体形などまったく気にならなくなる。ものすごい声の持ち主。アルヴィーノのジュゼッペ・ジパーリも強靭なテノールが美しい。オロンテのフランチェスコ・メーリ、パガーノのアレックス・エスポージトも文句なし。

 知らない曲なので演奏については何も言えないが、ミケーレ・マリオッティの指揮もメリハリが感じられてとても心地よかった。

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