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ドニゼッティ13枚組DVDを楽しんだ

 武漢で発生して世界に広まりつつある新型コロナウイルスのニュースが気になる。私は、日本語学校の校長を務めている(ただし、認可申請中)。その関係もあって、3月以降、何度か中国に足を運ぼうと思っていたが、見通しが立たない状況だ。日本人の健康のためにも、世界の健康のためにも、そして学校の運営のためにも、ウイルスが広まらずに、できるだけ早く終息してくれることを祈るばかりだ。

 そんななか、今年の初めから、時間が空いた時に「ドニゼッティのヒロインたち」というタイトルの13枚組のDVDをみていた。そのうち、初めて見た映像について、簡単な感想を記す。

 数年前まで、イタリア・オペラは、いくつかのロッシーニとヴェルディをのぞいて、一切みたり聴いたりしなかったのだが、少し心を広くしてみると、イタリア・オペラもとてもおもしろい。ワーグナーやシュトラウスほどの芸術性は感じないが、ドニゼッティやベッリーニもとても楽しいし、感動する。

 

「アンナ・ボレーナ」 2006年 ベルガモ

 ほかの歌手たちのほとんどは「なかなかいい」という程度なのだが、アンナ・ボレーナを歌うディミトラ・テオドッシュウが圧倒的に素晴らしい。ファブリツィオ・マリア・カルミナーティの指揮もフランチェスコ・エスポージトの演出も、特にどうということはない。だが、イタリア・オペラは主役一人がずぬけていれば、それだけで十分満足できる面がある。悲劇の王妃の気品と悲しみの伝わる絶唱。

 ところで、ペルシを歌っているのはジャンルカ・パゾリーニという人。私の人生を変えた映画監督ピエル・パオロ・パゾリーニを思い出した。何か関係があるのだろうか。

 

「ランメルモールのルチア」2006年 ドニゼッティ劇場

「アンナ・ボレーな」とほとんど同じ印象を持った。アントニーノ・フォリアーニの指揮もフランチェスコ・エスポージトの演出もきわめて標準的といえるのではないか。特に大きな感銘は受けなかった。そして、ほかの歌手陣についても、なかなかいいのだが、それ以上ではない。ただ、ルチアを歌うデジレ・ランカトーレだけが素晴らしい。美しくて音程の正確な声。とりわけ高音が素晴らしい。容姿も美しく、ルチアにぴったり。それだけで、狂乱の場はうっとりしてしまう。

 

「ケニルワース城のエリザベッタ」2018年 ベルガモ

 ドニゼッティにこのようなオペラがあること自体知らなかった。エリザベス1世を題材にしたスコット原作のドニゼッティ初期のオペラだとのこと。芸術的な深みはないかもしれないが、オペラとしてもとてもおもしろかった。ストーリーはわかりやすく、しかもそれぞれの登場人物の心情は理解でき、音楽も起伏があり、ドラマティック。

 今回の上演はきわめて高水準で全体的にそろっている。歌手陣が素晴らしい。エリザベッタのジェシカ・プラットは貫禄のある演技と深みのある美しい声。アメーリアのカルメラ・レミージョは線は細いが、とても可憐で、か弱い女性を見事に歌っている。狂乱の場は見事。レスターのサビエル・アンドゥアーガは歌いまわしの清潔な美声、悪役のヴァーニーを歌うステファン・ポップも憎々しくも人間的なこの役をみごとに造形している。

 リッカルド・フリッツァの指揮のドニゼッティ・オペラ管弦楽団については、特に感銘を受けなかったが、このようなオペラではこれだけ歌手陣がそろえば、感動してみていられる。演出はマリア・ピラール・ペレス・アスパ。色彩も鮮やかで、小さな檻でアメーリアの悲しみを浮き彫りにし、鉄格子によってエリザベッタの孤独を強調する。

 ともあれ、とてもおもしろいオペラを知ることができて、満足。

 

「ファヴォリータ」(フランス語版)2018年 フィレンツェ、テアトロ・コムナーレ

 フランス語版なのに、ほとんどの歌手のフランス語の発音があまりにめちゃくちゃ。ほぼ全員が、語尾のeを「エ」と発音して朗々と歌う。これでは、まったくフランス語に聞こえない。いっそのことイタリア語版でやってほしい。なぜ、わざわざフランス語版の上演にしたのか疑問に思う。

 そのなかでレオノールを歌うヴェロニカ・シメオーニだけがフランス語らしく歌う。フェルナンのチェルソ・アルベーロはきれいな声だが、フランス語の発音があまりにひどい。アルフォンス11世のマッティア・オリヴィエリはフランス語の発音はもちろん、声自体あまりに不安定で聴いていられない。なぜこんな歌手を抜擢したのか。

 ファビオ・ルイージの指揮はドラマティックで、きびきびしているのだが、私は全く楽しめなかった。フランス語に無関心だったら、楽しめるのだろうか。

 

「ピグマリオーネ」 2017年、テアトロ・ソチャーレ・ディ・ベルガモ

 初めてこのオペラを知った。40分に満たない短いオペラで、登場人物も二人きり。自分の作った彫像に恋をするピグマリオンの物語だ。

 ピグマリオーネを歌うのはアントニーノ・シラグーザ、ガラテイアは脇園彩。登場人物は二人と書いたが、30分近く、ピグマリオーネがずっと一人で歌い続ける。ほとんどモノオペラといったところ。シラグーザは素晴らしい歌と演技で一人舞台をこなすが、プーランクの「人間の声」やシェーンベルクの「期待」のようには状況の変化や感情の起伏がなく、ただ状況を語り、彫像への思いを語るだけなので、少々退屈だった。彫像ガラテイアが言葉を話し始めてから、やっとおもしろくなった。脇園もとてもしっかりと、しかも不思議な魅力で歌うが、出番が少ないのが残念。

 ジャンルカ・カプアーノ指揮のアッカデミア・スカラ座管弦楽団はとてもいい。ロベルト・カタラーノの演出は、舞台中央に、向こう側が透けて見えるアクリル板(?)を置いて、前方でピグマリオーネが歌い、奥でガラテイアが神秘の彫像として動くというもの。最後にガラテイアが前方に出てきて歌い始める。変化のない演出だが、このオペラではやむを得ないだろう。それなりには魅力的な演出だと思った。

 

「ロベルト・デヴリュー」 2016年 カルロ・フェリーチェ劇場

 エリザベットを歌うマリエッラ・デヴィーアとサラを歌うソニア・ガナッシ、そして、ロベルト・デヴリューのシュテファン・ポップの三人は素晴らしい。伸びのある美声で、音程もよく、演技力も見事。この三人が絡む場面は緊張感にあふれてすばらしい。

 が、ノッティンガム公爵を歌うキム・マンスーは、徐々に声が出てくるようになるものの、ほかの三人に比べるとかなり弱い。また、フランチェスコ・ランツィロッタの指揮するジェノヴァ・カルロ・フェリーチェ劇場管弦楽団もときどき頼りない音を出す。アルフォンソ・アントニオッツィの演出も工夫のないもので、とりわけ後半にドラマが盛り上がらないのを感じた。

 ただ歌を味わうだけの舞台だと思った。

 

「イングランドのロズモンダ」2016年 ベルガモ、ドニゼッティ歌劇場

 このオペラの存在を初めて知った。この上演は、歌手陣がそろっていて、とても楽しめた。もちろん、不自然なところは多々あるが、ともあれストーリーもおもしろい。

 ロズモンダのジェシカ・プラットと王妃レオノーラのエヴァ・メイの二人が素晴らしい。プラットは清純な美声。とりわけ高音が美しい。うっとりしてしまう。メイはこの悪役を迫力ある美声で見事に歌う。悪役を歌う名を見る(聴く)のは初めてだが、さすがの名歌手だと思う。王妃レオノーラを捨てて、ロズモンダを愛してしまうエンリーコを歌うダリオ・シュムンクも見事な美声だ。恋に溺れたわがままな中年の王という雰囲気(原作とは雰囲気が異なるのかもしれない)で歌う。それはそれで説得力がある。ロズモンダの父クリフォードを歌うニコラ・ウリヴィエリも、若そうに見え、しかも細身なのにみごとな貫禄。そして、ロズモンダにひそかに恋する小姓役のラファエッラ・ルピナッチもけなげに歌う。すべての歌手がそろっている

 セバスティアーノ・ロッリの指揮するドニゼッティ歌劇場管弦楽団は、それほど素晴らしいわけではない。が、歌手たちがこれほどそろっていれば、楽しむのに支障はない。演出はとても分かりやすい。登場人物は目の周りにメイクをしているが、どうやらよこしまな人々は黒っぽいメイク、そうでない人は金色などの明るめのメイクのようだ。ちょっと単純すぎはしないかと思う。

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