長尾洋史のゴルトベルク変奏曲 緻密で確かで厳かで豊かさにあふれた世界
2020年1月19日、六本木Kコンサートサロンで長尾洋史ピアノリサイタルを聴いた。曲目はバッハのゴルトベルク変奏曲。
ピアノ曲をあまり聴かない私は、ピアノの音に反応することはあまりないのだが、10年近く前、加納悦子さんの歌を聴きに行って、伴奏の長尾さんのピアノの音に深く感動したことがあった。その後、何度か長尾さんのピアノを聴かせていただいたが、今回、長尾さんが得意のゴルドベルク変奏曲を演奏すると知って聴きに出かけた。
演奏前、舞台に登場した長尾さんが、ゲネプロ中に弦が切れて出にくい音があることを話した。そして、ゴルトベルク演奏曲の前に、マタイ受難曲の中のアリアを演奏。そのままゴルトベルク変奏曲が始まった。私の耳が良くないのかもしれないが、私自身は出にくい音についてはまったく気にならなかった。
それにしても、感傷的なところが皆無のバッハ。研ぎ澄まされたゆるぎない音で、リズムを動かすこともなく、感情移入することもなく、真摯に明晰に演奏を続ける。むやみに強弱をつけることもなく、ある意味で淡々としている。しかし、ストイックでありながら、その美しい音には様々な感情が含まれる。確かな音によって、静かに、そして確かに緻密で確かで厳かで、しかも豊かさにあふれた世界があふれ出る。これはもう一つの魔法だと思った。素人目には、単に楽譜通りにひいているように思われるのだが、徐々にホールをバッハの世界に変えていく。長尾さんのお弟子さんなのだろうか、若い方や小中学生に見える子供もいた。若者には退屈な曲なのではないかと心配したが、みんながじっと耳を傾ける。それほどまでに説得力のある演奏といえるのではないか。
30の変奏が無作為に並べられているのではなく、必然的な理由をもって並べられていることがとてもよくわかる演奏だった。徐々に深まり、高まり、頂点に達して、最初のアリアに戻ってこの大曲が終わる。
素晴らしいピアノの世界を堪能した。
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