新国立劇場「セビリアの理髪師」を楽しんだ
2020年2月8日、新国立劇場で「セビリアの理髪師」をみた。とても楽しめた。
歌手陣は突出した人はいないが、全体的に充実している。もっともよかったのは、フィガロのフローリアン・センペイだろう。声量も豊かで、たくましくて元気なフィガロを見事に演じている。ロジーナの脇園彩もそれにまったく引けを取らない。堂々たる歌いっぷり。声も強く、躍動感もある。アルマヴィーヴァ伯爵のルネ・バルベラはきれいな声だが、初めのうち抑え気味で物足りなかった。徐々に声が出るようになった。バルトロのパオロ・ボルドーニャもはじめのうちは弱さを感じたが、徐々に芸達者さを際立たせていった。ドン・バジリオのマルコ・スポッティは、時々声がかすれたのが気になったが、スケールの大きなこの役らしい歌いっぷり。ベルタの加納悦子は独特の味を出して、とてもよかった。
ただ実を言うと、アントネッロ・アッレマンディの指揮には少し不満を覚えた。とても丁寧で抒情的な指揮ぶりだと思った。オーケストラもしっかりと演奏。きれいな音を出していた。アルマヴィーヴァ伯爵のアリアなどとても美しい。しかし、歌と歌が並列的に演奏されるだけで、盛り上がっていかない。ロッシーニらしい躍動感がなく、そもそもテンポが遅め。やはり、ロッシーニはクレシェンドをきかせて、躍動させてほしい。
演出はヨーゼフ・E.ケップリンガー。フランコ独裁時代のスペインを舞台にしているのだろうか。1960年前後の雰囲気の舞台(ただ、音楽教師や神学生はもっと古い時代の服装だと思う。複数の時代が入り混じっているのかもしれない)。娼家がバルトロの家の目の前にあって娼婦たちが舞台上を動きまわる。そして、何とベルタはその娼家の支配人でもあるようだ。独裁時代を強く生きようとしたフィガロやロジーナやベルタや娼婦たちをたたえているともいえそうだ。
ただ、そのような舞台にしたために、全体的に少々下品になっているのを感じざるを得ない。育ちの良いロジーナが箱入り娘として半ば監禁され、そこから抜け出そうとしているというテーマが薄れている。そもそも、ロジーナは強い女であって、あちこち自由に動き回る。
細かいところでは不満に思うところ、疑問に思うところもあったが、全体的には大いに満足。やはり、このオペラはおもしろい。高校生がたくさん来ていたが、喜んでくれたのだったら、オペラファンの一人としてとてもうれしい。
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