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中国映画「古井戸」「草原の女」「あの子を探して」「妻への家路」

 外に出る用がないので、自宅で仕事をしたり、音楽を聴いたりしている。昨日からちょっと風邪気味。間違いなく、ふつうの軽い風邪だと思うが、大事をとって自宅でゴロゴロすることにした。中国映画を何本か見た。簡単な感想を書く。

 

「古井戸」 1987年 呉天明(ウー・ティエンミン)監督

 原作の訳本はずっと昔に購入。ただし、読まないまま本棚のどこかに並んでいる。名監督チャン・イーモウが主役を演じている。よい役者だと思うが、恋人役の女性と年齢的に釣り合わない気がする。

 山間の盆地にある部落。井戸が枯れたため、村人全員が新しい井戸を渇望している。主人公は井戸の事故で死んだ父の後を受けて、井戸掘りに奮闘し、最後には水を出すことに成功する。そうした状況を主人公の恋や、別の未亡人との無理やりの結婚を通して描く。

 中国の寒村の苦難、文革後の人々の状況、その中で懸命に生きる人の姿が描かれて、とてもおもしろい。ただ、現在の日本で暮らす肩の力の抜けた私からすると、主人公たちはちょっとうっとうしい。ストーリーも少し無理を感じる。

 

「草原の女」 2000年 ハスチョロー監督

「胡同の理髪師」のハチチョロー監督のデビュー作。出身地の内モンゴルを舞台にしている。「胡同の理髪師」があまりに素晴らしかったので、購入してみた。

 息子と二人で暮らす女性のもとに暗い過去を持つ男が仕事を求めてやってくる。その交流と男の過去、そして留守中の夫の関係が描かれる。

 初めのうちは、淡々と描かれる内モンゴルの草原やゲルでの暮らしに惹かれるが、残念ながら、期待外れとしか言いようがない。あまりに都合の良い、しかもありきたりの波乱万丈のストーリーが展開され、そこに必然性が感じられない。昔、少年向けの西部劇をまねた漫画でこんな話をずいぶん読んだような気がする。人物像もあまりに薄っぺら。途中からみるのがつらくなってきた。

 

「あの子を探して」 1999年  チャン・イーモウ監督

 代用教員として、本職の教員の留守を預かって小学校で子供たちの面倒を見るようになった13歳の少女ミンジ。何とか子どもたちをまとめ、出稼ぎのために町に出て行方不明になった子どもホエクーを迎えに単身でかけて、苦労の末に見つけ出す。

 ミンジは賢いわけではない。やることなすこと、あまりに子供っぽくて、失敗ばかりする。まさに等身大の13歳。最後には、子どもたちは心からミンジを慕うようになる。そうしたミンジの行動や子どもたちとの心の交流を貧しい農村や人でごった返す都会の中で丁寧に描く。

 ミンジはかわいい少女でもなく、かわいげのある行動もとらないし、賢くもないので、初めのうちは感情移入できない。だが、徐々に、そのけなげな行動に心打たれるようになってくる。そして、そのうち、ミンジやホエクーがたまらなく愛しく思えてくる。私だけでなく、だれもがそうだろう。そのように仕向ける子どもたちの演出が見事ということだろう。

 13歳の子供が代用教員として子供を教えるというようなことが現実にあったのかどうかはわからない。が、1999年には小学校も十分に機能していない中国の農村があったのは事実だろう。貧しい子供たちの心の交流を描く映画として、とても感動的だ。

 

「妻への家路」  2015年 チャン・イーモウ監督

 文化大革命の間、右派として西域に収容されていた夫(チェン・ダオミン)が解放されて、妻(コン・リー)のもとに戻ってくる。だが、夫は文革中、娘を含めて周囲のみんなに存在を否定されていた。そのせいか、今では妻は心の病にかかり、夫の姿が記憶から失われている。夫が帰宅しても、妻はそれを夫と認識せずに拒んでしまう。夫は近くに住んで、娘とともに妻の記憶を取り戻そうとするが、最後まで記憶は戻らない。妻は文革から解放されて駅に戻るはずの夫を待って駅に迎えに行く。夫はその妻に寄り添って、幻影の自分を待つ。

 文革というあまりに理不尽な歴史に翻弄された夫婦の物語。だが、同時に、人間と人間の心のすれ違いをとても鋭く描いている。人は多くの場合、心底、人を愛する。そして、しばしば心から愛し合う。だが、愛の対象は、実は幻想のものでしかないことも多い。愛し合っていながら、それがかみ合わない。そんな思いをした経験は私にもある。そのような心の奥底がつたわってくる。せつなくて、美しくて悲しい映画だ。

 まさに大人の映画。俳優たちの抑えた演技も見事、文革の傷跡もさりげなく、しかも痛々しく描いて、心にしみる。名作だと思う。

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