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ベルトルッチの映画「殺し」「1900年」「魅せられて」「シャンドライの恋」「孤独な天使たち」

 新型コロナウイルスの影響で家にいることが多いので、購入したままになっていたベルトルッチ監督の映画のDVDを数本みた。かつてみたことのあるものもあれば、初めてのものもある。簡単に感想を書く。

 

「殺し」 1962

 ベルトルッチのデビュー作。原案はパゾリーニ。私は学生時代、パゾリーニに心酔していたので、この映画にはずっと昔から関心を持っていた。この映画は日本では一般公開されていないと思うが、どんな機会だったか、一度見た記憶がある。期待ほどではなかったのでちょっとがっかりしたのを覚えている。で、今回みて、やはりあまり名作ではないと思った。

 ローマの場末の公園近くで娼婦が殺される。その公園を通った人物数人が刑事に向かって証言する。証言者たちの回想によって下町の人々の生活が浮き彫りにされていく。のぞき、かっぱらい、高利貸し、男あさりする同性愛者が夜の公園をうろうろする。いかにもパゾリーニ好みの下層の愛すべきろくでなしたち。パゾリーニの小説「生命ある若者」や映画「アッカートーネ」で描かれる世界だ。

 ただ、物語としては、特に何の仕掛けもなく娼婦殺しが発覚し、ほかの証言と錯綜するといったこともないので、少々肩透かしの気分になる。とはいえ、映像は素晴らしい。モノクロの画面に下町の人々の猥雑な生命が抽象化されて描かれる。下町の薄汚い光景が一編の詩になっている。

 

1900年」  1976

 封切時にみたのをよく覚えている。大きな感銘を受けたが、必ずしも名作とは思わなかった。が、今みてみると、これはベルトルッチの代表作の一つだと思う。

 1900年に生まれた二人の男の子の生涯をイタリアの歴史の中に描いている。5時間を超す大作。一人は大地主の孫として、もう一人は小作人の孫として生まれ、兄弟のように競い合い、けんかしあって生きていく。だが、長じるにしたがって、立場が変わり、地主階級のアルフレード(ロバート・デ・ニーロ)は、強権を嫌いながらも、そこから一歩も出ようとせず、ファシストたちが手下として動くのをやめさせることができない。小作人のオルモ(ジェラール・ドパルデュー)は搾取に喘ぎ、社会主義者になって農民を組織化しようとし、ファシストに抵抗する。1945年、ファシストは破れ、農地は社会主義的高揚に包まれる。アルフレードは人民裁判にかけられ、有罪となるが、オルモに提案によって命は助けられる。最後、老年になった二人が幼いころと同じように喧嘩をし、競い合っているところで映画は終わる。

 大きく時代が動いた半世紀の人間、土地、自然のさまがまさにリアルに生きたものとして描かれている。大スターたちの演技も見事だが、それ以上に、すべての場面がまさに動く美術品といえるほど美しい。戸外も屋内も、牛小屋や豚小屋でさえも美術作品になっている。

 アルフレードの自由奔放な妻アーダを演じるドミニク・サンダ(一時期、私の最も好きな女優さんだった!)、地主のバート・ランカスター、ファシストのドナルド・サザーランド、その妻役のラウラ・ベッティ、そしてファシストに陥れられる貴婦人役のアリダ・ヴァリなどの世界的大スターたちが存在感を示している。

 1945年の社会主義的高揚をこれほど鮮やかに描くのは、ベルトルッチ自身の思想によるのだろうが、おそらくこれは第二次大戦終了後の西欧の気分を描くと同時に、この映画が作られた1976年の時代の気分も反映しているだろう。いま、みなおして、古典的なファシストは存在しなくなったが、形を変えたファシストが現在もいることを思わぬではいられない。

 

「魅せられて」  1996

 若く美しいアメリカ人女性(リブ・タイラー)が、かつて一度だけ訪れたことのあるイタリア・トスカーナの山間にある亡き母の友人の家に滞在し、自分の出生の秘密を探ろうとする。そして、そうするうち、そこに集まる人々の性愛を知り、人間模様を知り、母と交流のあった死を直前に控えた詩人(ジェレミー・アイアンズ)を知る。最後、本当の父を知り、憧れを抱いていたのとは別の男性に処女を捧げる。

 見始めた時には、大勢の登場人物(しかも、みんなが美男美女!)の人物把握に苦労したが、さすがベルトルッチだけあって、自然に理解できるように進んでいく。無防備な女性が性を知り、愛を知り、死を知る・・といういわば「教養小説」の類の物語だが、トスカーナの自然も美しく、画面全体が官能的でもあり、描かれる人生に重みもあって、とても魅力的な映画に仕上がっている。近所に暮らすフランス人老人の役でジャン・マレーが出演している。圧倒的存在感。そして、ジェレミー・アイアンズがいい味を出している。もちろん、リブ・タイラーはあまりに魅力的。

 

「シャンドライの恋」 1998

 アフリカの国で、夫を政治犯として捕らえられたシャンドライ(タンディ・ニュートン)は、その後、ローマで暮らし、イギリス人のピアニスト、キンスキ(デヴィッド・シュールス)の家の手伝いをしながら医学を学んでいる。シャンドライを愛するようになったキンスキはシャンドライの願い通り、様々な物を売り払って夫を出獄させる。シャンドライもキンスキを愛し始め、夫が解放されてシャンドライのもとにやってくる前の夜、シャンドライは酔ったキンスキの胸に体を寄せる。

 ピアノが官能を掻き立てる。モーツァルト、ベートーヴェン、スクリャービン。アパルトマンの螺旋階や物干し場になった屋上の映像が美しい。アフリカの女とイギリスの男。真面目で内向的な二人がおずおずと不器用に自分の思いを伝え、心を通わせていく様子が、音楽を通し、ローマの下町の光景を前にして描かれていく。

 最後、夫がアパルトマンに到着するが、キンスキのベッドの中にいるシャンドライはそのまま動かない。夫が途方に暮れているところが遠景で撮られて映画は終わる。

 私のような前期高齢者がみても心にしみる恋愛映画の傑作だと思う。

 

「孤独な天使たち」 2012

 ベルトルッチ最後の作品。闘病生活後に撮影。その後の作品が期待されたが、結局、映画を撮らなかった。

 14歳のロレンツォは周囲となじめず、社会に敵意を示して生きている。学校のスキー教室に参加すると親をだまして、家の地下室で一人の時間を過ごそうとする。ところが、そこに長い間、絶縁状態だった異母姉が寝場所を求めてやってくる。孤独な少年とヤク漬けの若い女との同居が始まる。初めのうち、少年は女性を拒否するが、だんだんと大人になりかけた女性の苦しみ、社会との軋轢を知るようになる。

 要するに、引きこもり少年の個室に同じように苦しむ女がやってきて、そこで女性を見るうちに、社会との接点を取り戻す物語といってよいだろう。

 ただ、私には、少年が社会性を取り戻していく過程がよく理解できなかった。14歳のころの私も、この少年と同じように周囲に敵意を向け、自分の中にこもるタイプの人間だったのだが、それから50年以上がたって、あのころの気持ちを忘れてしまったのかもしれない。

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