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再びロッセリーニの映画「イタリア旅行」「不安」「火刑台上のジャンヌ・ダルク」「インディア」

 緊急事態宣言が全国に発出された。いよいよ正念場。何とか医療崩壊を起こさず、日本がニューヨークのようにならずに無事に収束してほしい。やっと全国民一律10万給付が決定。アベノマスク問題といい、安倍総理の動画問題といい、10万円給付のごたごたといい、いったい安倍政権はどうなっているんだ!と声を荒げたくなるが、ともあれ感染拡大の防止に成功することを願うしかない。

 ともかく私としては、なるべく家から出ないで粛々と仕事をすること、疲れたら、芸術を楽しむことを心掛けている。先日、ロッセリーニの映画を数本見て、とてもおもしろいと思った。もっと見たくなって、同じロッセリーニ監督のほかの数本を購入。簡単な感想を書く。

 

「イタリア旅行」1953

 叔父から受け継いだ別荘を売るためにイタリアにやってきたロンドンの上流の中年夫婦(ジョージ・サンダースとイングリッド・バーグマン)。恵まれた社会の二人だが、心は離れ離れになって、それぞれ別行動をとっている。ある時、妻はカタコンブに行き、積み重ねられた大量の人骨を見る。翌日、無理やり夫婦二人でポンペイに連れていかれ、抱き合った夫婦が掘り起こされる現場を目撃する。妻は気分が悪くなって、そのまま車で帰ろうとするが、そこで街の中を練り歩く復活祭(?)の大行列に巻き込まれる。二人は切り離され、そこで二人は愛し合っていることに気づき、愛を確かめる。

 ハリウッド映画的な大きな起伏はなく、まさしくネオレアリスモの手法で即物的に夫婦の行動が描かれる。そこから、二人の心情が見えてくる。古代ローマ時代の様々な遺物が妻の心に生と死を感じさせていくのがよく理解できる。イタリアの雑踏、そこを歩くイタリアの庶民の姿がとても魅力的だ。

 ロッセリーニとバーグマンの心が離れ離れになったころに、よりを戻したいという願望を反映した映画だといわれる。だが、そうしたことを抜きにしても、なかなかの名作だと思った。

 

「不安」 1954

 ツヴァイクの原作だという。

 イレーネ(バーグマン)は、科学者である夫とともに製薬会社を経営しているが、若い男エンリケとの不倫を断ち切れずにいる。そんな時、エンリケの元恋人という若い女性が現れて、夫にばらされたくなかったら金を出せと脅してくる。そして、それ以来、執拗につきまとう。切羽詰まったイレーネは直談判しようとする。そして、実はその女は、すでにエンリケの存在を知ったイレーネの夫の指示で彼女を脅していたことを知る。イレーネは自殺を決意するが、結局は子供のために生きることを選ぶ。

 サスペンスにあふれ、意外な展開を示す。よくできたサスペンス映画であり、人間の暗い面を覗き見る思いがする。が、これまでみてきたロッセリーニの雰囲気とはかなり異なる。街(ミュンヘンで撮影されたという)の様子も、これまでの映画と異なって、寒々として人気がないし、人間のエネルギーのようなものを感じない。あえてそうしたのかもしれないが、私としては少々残念に思う。バーグマンとの関係が危機を迎えていた時期の映画だから、このように暗い雰囲気なのか。

 

「火刑台上のジャンヌ・ダルク」 1954

 クローデル台本、オネゲル作曲のオラトリオの映画化(ただし、かなりカットがあるようだ)。これまで、何度かこのオラトリオの映像をみたことがある(先日もバルセロナ、サラ・パウ・カザルスでの上演をみた)が、ロッセリーニ映像をみると、なるほどクローデルとオネゲルの頭にあったのはこのような情景なのかと納得する。

 ジャンヌ(バーグマン)の肉体は火刑台上にいながら、その魂は肉体から離れてドミニク司祭と超歴史的な会話を行っている。ジャンヌを裁こうとする俗人たちや懐かしい人々を回想しつつ、神への思いを再認識し、ついには覚悟を決めて神の定めに従う様子が描かれる。当時の人々を二人が高みから見下ろすように描かれているので、状況がわかりやすい。初めて、このオラトリオの仕組みを理解できた気になった。

 これはなかなかの傑作だと思う。このオラトリオをこれほどまで明確に映像化できたのには驚くしかない。ロッセリーニがこの音楽をきわめて深く理解していたことがよくわかる。

 バーグマンはハリウッド映画のジャンヌ・ダルクの役に嫌気がさして、よりリアリティのある映画を求めてロッセリーニのもとに走り、ついに念願のジャンヌ・ダルクの役を演じることができたのだという。そのせいかもしれない。バーグマンの演技も素晴らしい。これまで、バーグマンの演技には、私はさほど惹かれなかったが、少女を演じるこのジャンヌの役は、美しくも悲劇的で素晴らしいと思う。

 私のみたDVDはあまりに音質が悪く、音楽を鑑賞しようという気になれないのが残念だ。カラー映画だが、色彩も貧弱。だが、それにしてもバーグマンはフランス語で語り、時には歌っている。吹き替えではないのだろうか。そうだとすると、これも見事としか言いようがない。

 

「インディア」 1958

 ドキュメンタリーっぽく始まって、ナレーターがインド社会を紹介しているが、いつのまにか登場人物が現れて、ナレーターがその人物としてエピソードを語り始める。

 そこに描かれるのは、村の娘と恋に落ちた象使いの青年、妻の反発を受けながら、新たなダム建造地へと向かう技師、トラを助けようとする老人、猿回しのサルなどのエピソードだ。いずれも、ドキュメンタリー風に、内面に立ち入ることなく描かれる。西洋のように自然を屈服させるのではなく、自然と折り合いをつけて調和の中に生きようとするインドの人々の心のありようが浮かび上がってくる。

 登場人物に感情移入するのでなく、心の葛藤をドラマティックに描くのでもない。淡々と、まさしく自然の営みの中で起こる自然な出来事のようにインドの人々の生きる姿が描かれる。その意味ではとても魅力的ない映画だ。

 ただ、現在の目から見ると、中途半端な気がしてしまう。あっさりしすぎていて、あまり強い印象を持てなかった。カラー映画だが、少なくとも私のみたDVDの色彩はかろうじて色がついている程度で、まったく美しくない。もし、もう少し鮮やかな色彩だったら、かなり印象が異なるかもしれない。

 

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