オペラ映像「ホフマン物語」「修道院での結婚」
検査数が少ないので実数はわからないとはいえ、新型コロナウイルスの感染者数がかなり減ってきた。外出自粛の効果が出てきたのだろう。
少し前まで、我が家に赤ん坊の声が聞こえていたが、赤ん坊はもう若夫婦の暮らすマンションに移った。今、家族のことで気になるのは、母だ。新型コロナウイルス感染拡大のために、母のいる老人ホームはもう3か月近く面会禁止になっている。今年93歳になる母は認知症が進みつつあった。家族と会えなくて寂し上がっているのかもしれない。認知症が進んでいるのかもしれない。だが、会うことができない。私と同じような状況にいる人は大勢いるだろう。もっと深刻な人も大勢いるだろう。早く収束に向かってほしい。
そんななか、家ではオペラ映像を見たり、映画を見たり。オペラ映像を数本見たので、簡単な感想を書く。
「ホフマン物語」2018年 オランダ国立歌劇場
あまりに斬新なバイロイトの「タンホイザー」演出で名をはせたトビアス・クラッツァーの演出による「ホフマン物語」。読み替え演出に好意的でない私は、今回の演出も不快になった。
舞台上にいくつもの区画が作られ、3つ以上の小舞台に分けられている。それぞれで演技が行われる。ホフマンとミューズは同棲する若い芸術家の男女とされているようだ。全員が現代の服装をしている。ホフマンが過去に関係を持った女たちの話をするということなのだろう。だが、オランピアは機械人形ではなさそうだし、アントニアは喉を自分で切って自殺する。私にはそのような行為にどんな意味があるのか、よくわからなかった。わざわざこんなに複雑な舞台にして、意味ありげな行為を取る意味があるのだろうか。
演奏的にはかなり良いと思う。ジョン・オズボーンのホフマンは、声に威力は見事。ただ、フランス的な雰囲気がなく、いかにもアングロ・サクソン的。アイリーン・ロバーツのミューズは声も美しく、しっかりと演じていた。ニーナ・ミナシャンのオランピアは個性的な声だが、頭抜けてはいない。アントニアを歌ったエルモネラ・ヤオ(名前に覚えがあったので確かめてみたら、2010年に神奈川県民ホールで「椿姫」のヴィオレッタを第一幕まで歌って、声が出なくなって途中交代したソプラノだった!)は素晴らしい。ジュリエッタのクリスティーヌ・ライスも蠱惑的でなかなかいい。
ただ、リンドルフやコッペリウスなどを歌うアーウィン・シュロットがめちゃくちゃなフランス語で歌うのが興ざめ。また、フランツなどを歌うサニーボーイ・ドラドラ(南アフリカ出身の黒人歌手。それにしてもSunnyboy Dladlaという名前にどのような由来があるのだろう?)も音程が不安定で、私は聴くのがつらかった。
カルロ・リッツィ指揮のロッテルダム・フィルは勢いはあるのだが少し直情的すぎてガサツな気がした。もっとしなやかなほうがこの複雑なオペラにふさわしいと思うのだが。
オッフェンバック 「ホフマン物語」1981年 ロイヤル・オペラ・ハウス
読み替え演出の「ホフマン物語」に辟易したので、古いDVDをひっぱりだして古典的な上演をみた。ジョン・シュレシンジャー演出の名演として知られるもの。指揮はジョルジュ・プレートル。しなやかでフランス的エスプリがある。
すべての役が素晴らしいが、その中でもホフマン役のプラシド・ドミンゴが圧倒的。このころのドミンゴの声の威力たるやすさまじい。オランピアのルチアーナ・セッラも美しい声。アントニアのイレアナ・コトルバスも薄幸の女性を美しく歌って素晴らしい。ただ、ジュリエッタ役のアグネス・バルツァは声は魅力的だが、めちゃくちゃなフランス語の発音にびっくり。シュロットのフランス語よりももっとすさまじい。その昔、ドイツ語の達者な知人がバルツァのドイツ語の歌(何の曲だったか忘れた)を聴いて、発音があいまいで聞き取れなかったと語っているのを思い出した。プレートルがよくもこのようなフランス語を許したと思う。
それを除けば、本当に時代を代表する名演奏だと思った。
プロコフィエフ 「修道院での婚約」1997年 マリインスキー劇場
NHKの放送だったか、あるいは別の機会だったか、この映像を、昔、一度みたことがあるような気がする。
有名になる前のネトレプコがルイザを歌っている。とびぬけて綺麗でほれぼれする。古今東西歴代のオペラ歌手の中で第一位の美貌だと思う。ただ、歌のほうはまだ硬く、声も伸びていない。この少し後に大化けするとは思えないほど。
とはいえ、全体的には素晴らしい上演だと思う。指揮はヴァレリー・ゲルギエフ。ゲルギエフらしく切れが良く、色彩的で、魂をざわざわさせる力を持っている。歌手もそろっている。クララ役のマリアンナ・タラーソワも容姿が美しく、声もしっかりしていて清純。付添人のラリッサ・ディアドコヴァも凄味があり、おかしみもある。いい味を出している。そして何よりも、ドン・ジェローム役のアレクサンダー・ゲルガロフが自由自在な歌いっぷりと見事な演技。このころからゲルギエフ率いるマリインスキー劇場の声望が世界中に響くようになったが、その力量がよくわかる。演出も、愉快で豪華で色彩的。
嫌な相手と結婚させられそうになった娘が計略を用いて愛する男性と結ばれ、そのさなかにあれこれの誤解やごたごたが起こって、別の男女も結ばれる・・・というまるでドニゼッティの喜歌劇のような内容。だが、プロコフィエフだけあって、聞こえてくる音楽は斬新でクールでしかもとぼけていて、なかなかおもしろい。
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