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映画「エマ」「プライドと偏見」「嵐が丘」「ジェーン・エア」

 緊急事態宣言は期限をひと月ほど延長するという。予想されたことだが、日本の文化は取り返しのつかない痛手をこうむることになりそうだ。ともあれ、私にできることは、引き続き、なるべく外に出ないで、家で本を読んだり、BDDVDでオペラや映画をみたりすることしかない。

 ただ、先日まで私の家にいた妊婦が、幸い、妊婦でなくなり、その代わりに親族が一人増えた。我が家では数日前から幼い泣き声が聞こえている。それもあって、家にいても、それほどつらい思いはしないで済んでいる。

 そんな中、自宅で古い映画を数本みた。いずれも英国の女流作家の小説が映画化されたものだ。私は英米の女流文学は苦手で、数えるほどしか読んでいない。高校生のころ、「嵐が丘」を読んで、これをおもしろいと思う人間がいるなんて信じられん!と思ったし、大学に入ってから、「自負と偏見」を読み始めて、あまりにつまらないので、途中で放棄した。

 たぶんこれからもイギリスの女流作家の小説を読むことはなさそうなので、せめてそれらを原作とする映画だけでもみようと思った。

 

「エマ」 1996年 ダグラス・マクグラス監督

 ジェーン・オースティン原作。田舎の上流階級の娘エマが周囲の男女を取り持とうとするが、人の心の機微もわからず、人の品格を見抜く力もないエマは善意が空回りするばかりで、むしろ人を傷つけ、邪魔してしまう。が、エマも失敗するごとに、人々の繊細な心を理解するようになり、ともあれ、エマの活躍によって最後には丸く収まってエマ自身も恋を成就する。

 エマを演じているのはグィネス・バルトロー。明るくて美しくてとてもチャーミング。嫌味なく人々の心を描き、社会を描く。私は原作を読んでいないので、原作と比べることはできないが、とても魅力的なヒロインだと思う。そのほかの俳優たちも存在感がある。楽しい映画だった。ただ、それ以上のことを、この映画からくみ取ることはできなかった。

 

「プライドと偏見」 2005年 ジョー・ライト監督

 かつて、「自負と偏見」というタイトルで読み始めて、途中で挫折したオースティンの小説の映画化。恋愛映画としてはとてもよくできていると思った。

 農村のベネット家の美人五人姉妹。次女のエリザベス(キーラ・ナイトレイ)は上流階級のダーシー(マシュー・マクファディン)に強い印象を受ける。二人ともプライドが強く、自分とは別の階級への偏見があってなかなか素直になれないが、二人は惹かれあい愛し合うようになる。そのようなありがちな恋の物語が生き生きと描かれる。

 娘を金持ちと結婚したがっている善良だが、計算高い母親(ブレンダ・ブレッシン)、物静かにエリザベスを愛す父親(ドナルド・サザーランド)、恋に悩む長女ジェーン(ロザムンド・パイク)などとても魅力的に人物が描かれる。18世紀末の階級社会に生きる男女の気持ち、社会のありかたがリアルに描かれていて説得力がある。

 シューベルのソナタのようなピアノ曲が流れる。ジャン・イヴ・ティボーデのピアノだという。彼のオリジナルの曲だろうか。きれいな映像にマッチしている。

 とても楽しめたが、大学生の私がこの原作を途中で放棄したのも当然だと思った。当時私は、ドストエフスキーやらカフカやらサルトルやらに夢中だった。そんななまいきな大学生は、こんなもの読むにたえんと思うに違いない。

 

「嵐が丘」 1992年 ピーター・コズミンスキー監督

 50年以上前にエミリー・ブロンテの原作を読んで、確かにこのような光景を思い描いていたのを思い出した。ヒースクリフもこんな雰囲気だったし、キャシーもイメージ通り。ストーリーもわかりやすく、とてもよくできた映画だと思う。キャシーを演じるジュリエット・ビノシュはとても魅力的で、芯の強い女性を見事に演じていると思う。ヒースクリフのレイフ・ファインズもぴったりだと思う。

 ただ、映画としてあまり説得力を感じない。原作がどうだったかよく覚えていないのだが、これではヒースクリフは単なるストーカー気質のDV男でしかない。粗野な魅力が描かれていない。映像も少しきれいすぎる気がする。

 原作によるのかこの映画化によるのかよくわからないが、やはり私は、この生真面目で深刻な激情の物語にはついていけない。鬱陶しくて仕方がない。後半、神という言葉は現れるが、そこに深い形而上学が示されるわけでもない。一言で言って、私の好みの映画ではなかった。

 

「ジェイン・エア」 1995年 フランコ・ゼフィレッリ監督

 いわずと知れたシャーロット・ブロンテ原作の小説に基づく映画。高校生の頃、「嵐が丘」を読んで、ブロンテ姉妹に対する偏見を抱いたために、この原作は読んでいない。ストーリーさえもこれまでまったく知らなかった。

 原作も映画と同じような雰囲気だとすれば、「嵐が丘」に比べてずっと鬱陶しくない。ただ、徹底的に恋愛物語であって、私はそれ以上のものをここからくみ取ることはできない。

 さすがゼフィレッリというべきか、わかりやすく、しかも素直に感情移入でき、登場人物のみんながとても生き生きとしてリアリティがある。シャルロット・ゲンズブール(彼女の衝撃の初主演作「なまいきシャルロット」を封切時にみた記憶がある)がとても魅力的。ウィリアム・ハートのロチェスターもいい。不幸な過去を持つ二人の心の絆が見事に描かれている。

 ただ、少女時代の親戚からのいじめ体験や、理不尽な寄宿舎での仕打ちは、あまりにありきたりでリアリティを感じなかった。もう少し、時代性と絡めて、偽善的なキリスト教社会をえぐってくれれば、もっとリアリティが増したのではないかと思った。

 英国女流文学作品の映画化を4本みたことになるが、やはり私の好みではないと改めて思った。60年近く前から私はこれらとは異なる教養を求めてきたのだと痛感した。

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コメント

新しい命の誕生、おめでとうございます!

投稿: Eno | 2020年5月 2日 (土) 12時47分

コロナ禍の日々ですが、ブログを拝見するたびに楽しく興味深くて前のめりになってしまいます。

ところで「高慢と偏見」の映像版についてなのですが、少し古いですが英BBS制作でコリン・ファースさんの主演されたものがあります。
個人的にはそちらの方が原作の雰囲気にあっていてとてもよく出来ていると思いました。
(数年おきにBSテレビなどで再放送される機会があるようです)念のためお薦めさせて下さい。

ご家族さまのお話しとても明るいニュースで幸せのおすそ分け頂きました。

投稿: swan | 2020年5月 3日 (日) 02時26分

再投稿ですみません。
「BBS」と打ってしまいましたが「BBC」の誤りです。
恥ずかしながら訂正させて頂きます。

投稿: swan | 2020年5月 3日 (日) 02時45分

Eno 様
ありがとうございます。妊婦の新型コロナウイルス感染を恐れていたのですが、そのようなこともありませんでした。今の状況では、いつまでも油断できませんが、若い人たちを後ろから支えていきたいと思っています。

投稿: 樋口裕一 | 2020年5月 3日 (日) 09時52分

swan 様
コメント、ありがとうございます。とても力づけられます。
また、「高慢と偏見」についての情報もありがとうございました。BBCのドラマですか。そういえば、NHKで放送されていたような。少し探してみます。
コロナ禍の中でも、きっとあちこちで新しい生命が生み出されていると思います。何とか、新しい世代を支えていきたいものです。

投稿: 樋口裕一 | 2020年5月 3日 (日) 10時03分

ジェイン・オースティンの「高慢(自負)と偏見」は、かってモームが、彼女を世界の10大作家の1人に挙げ、また、漱石が「則天去私」を最もよく具現化した作品と絶賛しております。いわば、世界で最も平凡で、偉大な女流作家ではないかと考えられます。文芸作品では、映画化するのに適さない作風の場合も多々ございます。オースティンの作品の真骨頂は、英国文学に特有の<ユーモア精神>にあると思います。本作品は、明治以来、多くの翻訳がありますが、新訳で、オースティン研究家で英文学者の大島一彦氏(早稲田大学名誉教授)のものが、そのあたりの機微をよく捉えていて、特にお勧めです。今回の新型コロナ禍で、音楽や舞台芸術など諸文化の衰退が懸念されますが、ご紹介の、ラン・シュイ指揮コペンハーゲン・フィルのベートーヴェン交響曲全集は、近年まれに見る画期的な演奏だと思います。圧倒的に速いテンポや鋭利なダイナミクスの設定は、まさに、ベートーヴェンが想定した曲想を現代に実現したものと驚嘆しています。特に、4番、7番、9番が凄まじいです。

投稿: おとだま | 2020年5月 3日 (日) 11時34分

おとだま 様
コメント、ありがとうございます。
そういえば、その昔、漱石が絶賛しているのを知って驚いたのを思い出しました。今、読むとおもしろさに気づくのかもしれません。ただちょっと、今読むべき本がたまっていますので、そのあとに読んでみようかと思っています。
ラン・シュイ指揮のベートーヴェン、本当に素晴らしいと思います。近年まれにみる名演奏ですね。

投稿: 樋口裕一 | 2020年5月 5日 (火) 23時40分

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