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新作映画「コリーニ事件」 ドイツという国の父親捜し?

 コンサートはまだまだ再開しないようだ。待ち遠しい。だが、その代わりということでもないが、みたい映画がいくつも上映中だ。「コリーニ事件」をみた。

 フェルディナント・フォン・シーラッハの世界的ベストセラー小説を映画化だという。マルコ・クロイツパイントナーの監督作品。ベストセラーについては知らなかった。とてもおもしろかった。簡単に感想を書く(以下、いわゆるネタバレが含まれる)。

 トルコ系ドイツ人の新米弁護士カスパー(エリアス・ムバレク)はイタリア人の殺人犯コリーニ(フランコ・ネロ)の国選弁護人を引き受ける。ところが、コリーニが殺したのは、カスパーの親代わりともいうべき大恩人で経済界の大物ハンス・マイヤーだった。しかも、コリーニは完全黙秘。迷いながらも弁護士の仕事に必死にとりくみ、あのやさしく思いやりのあったハンスが実は若いころ、ナチスの親衛隊の将校であり、コリーニの生まれた村での虐殺を指示し、コリーニは目の前で残虐に父親を殺されたことをつきとめる。

 背景に、1968年に戦犯の時効を認める法律が作られ、その後、それが取り消しになったというドイツの法改革があった。コリーニはその当時ハンス・マイヤーを告発し、そのときは時効によって罪を免れたのだったが、それに承服できないコリーニが自ら復讐したことが明らかになる。

 このテーマに父と息子というテーマが重ねあわされている。マイヤーは実の息子と孫を若くして失い、孫の親友だったカスパーを代わりにかわいがった節がある。カスパーのほうも、2歳の時に実の父が家を出て疎遠になり、その代わりにマイヤーを慕っていたようだ。しかも、コリーニは虐殺事件の際、自分のせいで父の素性がばれて殺されたという負い目を負い続けている。この裁判は弁護士カスパーにとって、父親捜しという意味を持っている。裁判の途中で実の父の手助けを受け、父との関係を修復する。

 そして、この映画は、ある意味で、現在ドイツの父親捜しの物語でもあるだろう。現在のドイツの父親はナチス時代のドイツなのか。きっとマイヤーは過去を悔い、罪滅ぼしとして寛大で心優しく振舞ったのだろう。まさにドイツの歴史と一致する。だが、現在の視点ではいかなる残虐行為も許されない。悔い改めて社会に尽くした人には同情の余地はあるが、いかに罪滅ぼしをしようと過去の罪は消えない。親の罪を引き継ぐしかない。

 移民問題も絡んでいる。カスパーの実の父はゲルマン系のドイツ人のようだ。つまり、母親がトルコ人だったということだろう。きっと父は文化的な違いもあって母とうまくいかなかったのだろう。コリーニはドイツに暮らすイタリア人でありながら、イタリアの故郷をいつまでも思い続けている。

 様々な要素をはらんで、物語は展開する。アクションがあるわけではないが、息をつかせない迫力。エンターテインメントとしてとても良くできている。最後、結審を待たずにコリーニは自殺する。戦犯問題に解決を見ないことをこの自殺は案じているのか。

 コリーニを演じるのはフランコ・ネロ。昔の映画を何本かみて、昔からいい役者だと思っていたが、それにしてもなんという風格! 黙ってしかめっ面をしているだけで一つの芸術作品になっている。これが役者という存在なのだと改めて思う。

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