METライブビューイング「ポーギーとベス」 人間臭いドラマを堪能した
METライブビューイングが再開され、「ポーギーとベス」をみた。2020年2月1日にメトロポリタン劇場で上演されたもの。素晴らしかった。大いに感動した。
私はアメリカ音楽にはあまり惹かれないのだが、これは別格。最初から最後までぐいぐいと惹かれていく。オペラそのものがまさしく名作であるとつくづく思う。ストーリーもドラマティック。しかも黒人世界の猥雑な生のありようもとても魅力的。その中で聞こえる「サマータイム」も感動的。ガーシュウィンの音楽がいい。台本もよくできている。今回の上演も原作の力を十分にわからせてくれるすばらしいものだった。
ポーギーを歌うのはエリック・オーウェンズ。幕が上がる前にゲルブ総裁が登場してオーウェンズが風邪をひいていることが伝えられたが、数か所、少し声が詰まった程度で私はそれほど気にはならなかった。持ち役のひとつなので、まさにぴったり。ベスはエンジェル・ブルー(武蔵野市民文化会館で公演予定だったが、新型コロナウイルスで中止になった!)。大柄でダイナミックな歌いっぷり。もっと可憐な方がこの役にふさわしいと思うが、こんなベスもあっていいだろう。クララのゴルダ・シュルツは南アの出身だという。若くてリリックな歌手でとても清純な声。「サマータイム」が状況に応じてニュアンスを変えて見事に歌う。そのほか、善良な黒人たちも悪い黒人たちも、みんな歌も演技も素晴らしくて、まさに黒人のコミュニティに巻き込まれる。
指揮はデイヴィッド・ロバートソン。アメリカ音楽に疎い私はこの指揮者についてはまったくの無知だった。風貌のせいでそう感じられるのかもしれないが、ちょっとスリムで洗練されすぎた演奏に感じた。もっと猥雑でもよいのではないか。ただ、演出のジェイムズ・ロビンソンとともに、猥雑さを強調しないように気を付けたのかもしれない。
ただ気になるのは、すべてが木造の大きな建物の中で行われる設定になっていることだ。一つのコミュニティという点を強調しているのだろうが、こうなると、一つの大きな構築物のように感じられて、自然とともに生きるコミュニティの人々の生きざまが曖昧になるし、バラックのような建物でなくなってしまう。
とはいえ、ともかく音楽に酔い、一人一人の人物の生のありように触れ、人間臭いドラマをたっぷりと味わうことができた。久しぶりに大画面でオペラをみたが、やはり、これは格別。我が家のテレビ画面で見るのとは、全く別物だ。
とはいえ、ライブビューイングもいいが、生の舞台を見たいものだ。再開はいつになることか!
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コメント
私も観てきました。元々好きなオペラなので、堪能しました。あの映像は2月1日のものなんですね。今では閉鎖されたメトロポリタン歌劇場の、出演者が多く、観客もぎっしり満員の光景が、遠い昔のように感じられました。そんな光景がいつ戻ってくるのかと思いました。
投稿: Eno | 2020年7月 3日 (金) 08時01分
Eno 様
コメント、ありがとうございます。
2月1日でした。誤記しておりました。修正いたしました。ご指摘、ありがとうございました。
ブログを読ませていただいています。「ポーギーとベス」については、特に興味深く読ませていただきました。私は、このオペラの魅力を最近知ったばかりです。
今日、ライブビューイング「アグリッピーナ」を見て、昔の賑わいを懐かしむ気持ちになりました。いったいいつ再開できるのでしょう。
投稿: 樋口裕一 | 2020年7月 3日 (金) 21時12分
こちらこそ失礼しました。誤記にはまったく気付かずに、何気なくコメントさせていただきました。樋口様も「ポーギ―とベス」を楽しまれたようなので、つい嬉しくなって、何も考えずにコメントしてしまいました。今後ともよろしくお願いします。
投稿: Eno | 2020年7月 4日 (土) 09時55分
Eno 様
コメント、ありがとうございます。
そうでしたか。深読みしてしまいました。Eno様のことですから、スマートに、紳士的に私の誤記を指摘してくださっているのだと思ったのでした。私は2月11日と書いていたのでした。
Eno様のブログを拝見し、ご見識の深さ、広さに目を見張っています。
投稿: 樋口裕一 | 2020年7月 5日 (日) 22時07分