METライブビューイング「さまよえるオランダ人」 ちょっと盛り上がりに欠けたが、最後には感動した
METライブビューイング「さまよえるオランダ人」をみた。2020年3月10日、メトロポリタン劇場で上演されたもの。前もって予告されていた3月14日の上演でなかった。いうまでもなく、この後の公演はすべて新型コロナウイルスによって公演中止になっている。
指揮はヴァレリー・ゲルギエフ。さすがに蠱惑的なところもあり、ドラマティックな盛り上がりもある演奏。特有の音が聞こえてくる。ただ、ちょっと精妙さに欠ける気がしたのは気のせいか。もともとこのオペラは並列的に音楽が連なっていくとはいえ、ゲルギエフが指揮したら、もっとドラマとしての大きなうねりがあるだろうと期待していたが、第一幕、第二幕では意外と盛り上がらなかった。合唱もいつものすばらしさに少し欠ける気がした。第三幕になってやっと大きく盛り上がっていった。最後には、私も感動に震えた。
歌手陣は充実している。とりわけ、ゼンタを歌うアニヤ・カンペが伸びのある美しい声で全体を圧倒していた。第二幕のバラードでは少し粗かったが、第三幕はまさに絶唱。そして、エリックを歌うセルゲイ・スコロホドフも素晴らしかった。どうしても存在感が薄くなってしまうこの役をリリックでしかもかなり強い美声で歌う。今後、様々のワーグナーの大きな役を歌うようになるだろう。そのほか、もちろんオランダ人のエフゲニー・ニキティンもダーランドのフランツ・ヨーゼフ=ゼーリヒも、そして、マリーの藤村実穂子もしっかりと歌っていて、特に不満はない。
演出はフランソワ・ジラール。きわめてオーソドックス。第二幕でオランダ人の絵の代わりに大きな目が描かれていたり、糸車の合唱の場面で、糸が数本垂れ下がって、運命のもつれを暗示していたり、幽霊船の船員たちは登場しなかったりといった工夫はあるが、基本的にはこれまで見慣れてきたこのオペラの展開と大差はない。ただ、合唱団の人数が異様なほど多いのを感じた。船にあれほどたくさんの人が乗っていると、むしろ不自然に感じた。
客席がどのような状態なのか知りたかったのだが、大歓声は聞こえてくるものの一切映し出されなかった。何か事情があったのだろうか。予定されていた日の上演ではないというのも事情の一つだろう。きっと、ニューヨークもコロナ騒ぎで大変だっただろう。
ワーグナーに触れるといつも思う。やっぱりワーグナーは素晴らしい。最後には心から感動させてくれる。
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