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新作映画「ペイン・アンド・グローリー」 私自身の映画に思えた

 ペドロ・アルモドバル監督の「ペイン・アンド・グローリー」をみた。アルモドバルの映画は10本くらいみたと思うが、これはその中でも出色だと思う。

 自伝的映画といってよいだろう。簡単にまとめてしまうと、老年を迎えた映画監督サルバドール(アントニオ・バンデラス)が体中の不調に苦しんでいるさなかに、痛みに耐えかねてヘロインに手を出し、ますます創作意欲を失っていたところ、子ども時代を思い出し、またかつての愛の対象だった男性と再会して創作活動を再開するまでを描く。

 そのような縦軸のなかに、信心深く、溌剌とした若いころの母親(ペネロペ・クルス)とのやり取り、かつての映画作品の演技をめぐって対立し、その後、30年以上にわたって絶交していた男優との和解、サルバドールに男性の肉体美への欲望を芽生えさせた素人画家との交流などが、初々しく、懐かく、しかも生き生きと描かれる。

 アルモドバルは私とほぼ同年代だと思う。スペインと日本なので、かなり状況は異なるが、私は場面のあちこちに思い当たる情景を見つけ出して、心をゆすぶられた。

 川で洗濯する母親たちの集団のそばで戯れるという、今の子どもでは考えられないような体験を九州の山間部出身の私はしている。母親に手を引かれて新しく住むぼろ家のまえに立った経験が私にもある。左官のお兄さんの仕事を見ていたこともある。そして、私もアルモドバルと同じように、田舎では成績優秀の部類に属し、家族に期待されながら、その実、人に言えないような欲望を抱き、考えてはならないことを考えていた。秘めた恋の思い出ももちろんある。高齢になった母親にあれこれと依頼をされながら、私もごまかしごまかしして、それに答えていない。形は違うが、主人公の行動のあれこれが思い当たる。すぐれた作品の多くがそうであるように、この映画もまた、「この主人公は俺そのものだ!」と思わせる力を持っている。

 それにしても、何と映像の生々しいこと。生きた肢体があり、生命力を持った自然がある。様々な色が不思議な自己主張をして、それが見事に調和している。様々な要素が入り混じり、そして、それが生命力の回復、創作欲の回復につながっていく。俳優たちの演技の見事さにも舌を巻く。

 これが普遍性のある映画かどうか、私にはわからない。ただ私は、この映画が好きだ。他人事とは思えない。私自身の映画に思える。

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