辻彩奈のヴァイオリン 本格派の演奏に感動
35℃を超す日が続いている。本来なら、オリンピックが行われていた時期。これほどの暑さの中でオリンピックが行われなかったことを不幸中の幸いと考えるべきだろう。
そんななか、2020年8月18日、東京芸術劇場で、「芸劇ブランチコンサート 名曲リサイタル・サロン」を聴いた。演奏は辻彩奈(ヴァイオリン)と阪田知樹(ピアノ)。曲目は、初めにバッハのG線上のアリア、モーツァルトのヴァイオリン・ソナタ第34番、ブラームスのF.A.Eソナタよりスケルツォ、ブラームスのヴァイオリン・ソナタ第3番。ナビゲーターは加羽沢美濃さん。前もって購入していた席ではなく、入場時に、一席おきに改めた座席に変更されて渡された。やむを得ない措置だと思う。
辻のヴァイオリンは、音程がよく、切れがあって生き生きとしている。小細工をするのでなく、誇張するのでもなく、確信をもって演奏しているのがよくわかる。私の席(前から2列目の左寄り)からは、残念ながらピアノの粒立ちがあまりよく聞こえなかったが、全体的にはピアノも見事にヴァイオリンと支えあって音楽を作っている。繊細で構築的なピアノ演奏。
モーツァルトはまさに生き生きとして躍動的。第三楽章のアレグロは特にリズム感が良くて素晴らしかった。ブラームスになると、一層深みが増し、情熱が増してきた。素晴らしい演奏。スケルツォも躍動感にあふれていた。そして、私はとりわけソナタにぐいぐいと引き込まれていった。まったく小細工もなく、テンポを動かすこともなく、何も特別なことはしていないように見えて見事に高揚していく。ブラームスの熱い思いが伝わる。しかも、構築性があり、音楽の形がびくともしない。本格派の演奏だと思う。
アンコールはタイスの瞑想曲。アッと驚くほどに、色気のない演奏。この曲は色気たっぷりの演奏が多い。そうでなくても、フランス系のヴァイオリニストが引くと濃厚な味がつく。ところが、辻と阪田の演奏は清潔ですがすがしい。これほど色気なく演奏しながら、ワクワクさせることができるというのは驚くべき手腕だと思った。
コロナ禍の中、コンサートが再開され、私もいくつかのコンサートを聴いたが、とてもいい演奏だと思いながら、心から感動することがなかった。が、今日は心から感動。
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