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映画「シチリアーノ」 裏切った男の心のうち

 マルコ・ベロッキオ監督の映画「シチリアーノ」をみた。原題は「il Traditore」つまり、裏切り者。マフィアを捜査する検事に協力して、組織を裏切り、300人以上の犯罪者を逮捕に導いた実在の人物ブシェッタ(ピエルフランチェスコ・ファビーノ)を描く。

 ブシェッタはマフィアの一員として犯罪に手を染めながら、妻子を愛して暮らしていたが、内部抗争に巻き込まれ命を狙われる。しかも、ブラジルに逃げていたところ、警察に逮捕されてしまう。自殺を図るなどして逃れようとするが、有能なファルコーネ検事の取り調べを受けるうちに考えを変えて、むしろ現在のマフィアこそが本来のコーザ・ノストラ(マフィアを指す言葉だが、字義どおりには「われらが家」を意味する)を裏切っていると考えて、むしろ犯罪者逮捕の急先鋒に立つ。

 女好きで、家族を愛し、歌を好むブシェッタの人間らしい面、その苦悩と怒りを見事に描いている。初めのうち、たくさんの人物が次々と登場して名前と顔の識別に苦労したが、後半はそんなこともなく、心情を理解できた。

 ブシェッタはかつて殺した男を思い出す。その男は、自分が殺されると悟ってから、自分の子どもを常に幼い連れ歩き、殺人者が実行しないように仕向ける。ブシェッタはそれでも狙い続け、子どもが成長して結婚し、親から離れた日の夜、男を殺害する。殺される男の覚悟、その男を殺したころとその後のブシェッタの心情をうまく描くエピソードだと思う。ベロッキオはその場面をカットバックで挿入し、詩的に描く。

 終わりの部分で、当時の首相であったアンドレオッティの裁判でブシェッタが証人として証言する場面がある。そういえば、アンドレオッティとマフィアの関係が当時大きな話題になった。アンドレオッティを擁護する弁護士の手腕によって追い詰めることができなかった様子が描かれる。

 詩情にあふれる映像、心情の伝わる場面を追いかけながら、2時間半ほど、とてもおもしろくみたが、ただこれが「ポケットの中の拳」や「愛の勝利を」や「肉体の悪魔」ほどの傑作かというと、さほどとも思わなかった。

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