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オペラ映像「ミニョン」「天国と地獄」「ロンジュモーの御者」

 35℃前後になる暑い日が続いている。お盆中だが、基本的に自宅を離れず、エアコンのきいた室内で過ごしている。オペラ(オペレッタ)映像を数本みたので、感想を書く。

 

アンブロワーズ・トマ 「ミニョン」 パリ コンピエーニュ・インペリアル劇場 1992

 60年ほど前、私が親にねだって初めて買ってもらったレコード(17センチ盤)は「ウィリアム・テル序曲」だったが、そのB面に「ミニョン」序曲入っていた。A面は夢中になってレコードが擦り切れるまで聴いたが、B面はつまらなかったので、めったに聴かなかった。だが、ずっと記憶に残っていた。

 その少しあと、何かの懸賞に当たって、オペラ・アリアのソノシートをもらったが、そのA面は「ある晴れた日に」、B面は「ミニョン」の「君よ知るや南の国」だった。いずれも日本人歌手(名前は記憶していない。名唱といえるような演奏ではなかった)による日本語歌唱だった。1950年の黒澤明監督の映画「醜聞(スキャンダル)」の山口淑子演じるオペラ歌手が劇中で歌うのが、「君よ知るや南の国」。つまり、1950年代、60年代にはこの演目は、代表的なオペラとして知られており、「君よ知るや、南の国」は「ある晴れた日に」と並ぶポピュラーなアリアだったらしい。

 そんなわけでずっと映像をみたいと思っていたが、やっとDVDを入手。みてみた。もちろん、これはゲーテの「ウィルヘルム・マイスターの修業時代」に基づくオペラだ。

 あまりレベルの高い上演ではない。90年代の録画なので、音質も画質もよくないが、それ以上に、オーケストラが貧弱な音を出す。指揮はジャン・フルネだが、十分に実力を発揮できているとは思えない。歌手陣も世界一流とはいいがたい。ミニョンを歌うルシール・ヴィニヨンも声の魅力が不足するし、ウィルヘルム・マイスターのアラン・ガブリエルも音程がふらつく。フィリーヌのアニック・マッシスはきれいな声だが躍動感がない。演出はピエール・ジュールダン。懐かしい名前だ。今となってはごく当たり前の、わかりやすい演出といえるだろう。

 で、オペラそのものとしては、この上演を見る限りでは、名作とはいいがたい気がする。きれいな旋律は散見されるが、劇的盛り上がりに欠ける。かなり凡庸な音楽が並列的に流れていく感じだ。才能ある演出家や演奏家が本気で取り組めば、これが名作に変貌するのだろうか。もし、それが可能だとしたら、誰かが何とかして、そのうち、立派なオペラとしてよみがえらせてほしいものだ。

 

オッフェンバック オペレッタ「天国と地獄(地獄のオルフェ)」2019年 ザルツブルク音楽祭

 NHK/BSで放送されたもの。ちょっと下品な演出(家族と一緒にみることはためらわれる)だが、さすがザルツブルク音楽祭のオッフェンバックとあって、通常上演されるオペレッタとは段違いにレベルが高い。

 何しろ、まず「世論」を歌うのが、アンネ・ソフィー・フォン・オッター。まさに知性と気品にあふれ、お堅い女性を見事に演じている。久しぶりのフォン・オッターだが、今もとても魅力的。キャスリーン・リーウェックは頑健で元気いっぱいのウリディスを歌う。オルフェのホエル・プリエトは少し線が細いが、しっかりとうたっている。そのほか、登場する歌手たちすべてがあまりに芸達者。

 何より特筆するべきは、ジョン・ステュクス役のマックス・ホップがすべての役のセリフを受け持っていることだろう。歌唱はすべてフランス語でなされるが、セリフ部分は、ホップがすべての役を声色を使ってドイツ語で行う。様々な国の出身の歌手たちにフランス語のセリフを語らせることに無理があるための窮余の策も兼ねていると思うが、ホップが実に巧みに、様々な擬音も含めてドラマを再現するのには驚く。ただ、最初から最後まで同じパターンで続けられると、後半、少々飽きてしまう。

 そのほか、ジュピテルのマルティン・ヴィンクラーがなんとも好色でだらしのない役を面白おかしく演じている。プリュトンのマルセル・ビークマン、キュピドンのナディーネ・ヴァイスマンなど、どの役も実に見事。バリー・コスキーの演出も下ネタ満載ながらユーモアがあり、何よりオットー・ピヒラーの振り付けによる踊りの仕草が楽しい。

 エンリケ・マッツォーラの指揮によるウィーン・フィルはあまりに豪華。ただ、叫び声を入れたり、例のカンカン踊りを入れたりして下品な風を装っているが、根っこのところの「一流」はどうしても隠すことができず、将軍が町民に身をやつした雰囲気がある。最終的には、むしろ、オッフェンバックのオペレッタをこんなに立派に演奏してよいのだろうかという疑問を抱きたくなった。

 

アダン オペレッタ「ロンジュモーの御者」2019年 パリ、オペラ=コミック座

 アダンという作曲家は「ジゼル」でしか知らない。その「ジゼル」も、昔々FM放送で一、二度聴いて、あまりおもしろくなかったのでCDも持っていない(もしかしたら、セット物の中に混じっているかもしれないが)。が、フランスもののオペレッタの映像とあれば、ともあれみてみたい。そんなわけで購入してみた。

 ロンジュモーで暮らす御者のシャプルーは、マドレーヌと結婚した当日、その歌声をコルシ侯爵に認められ、オペラ座の歌手に誘われる。シャプルーはマドレーヌを捨ててそのままパリに赴き、大成功。しばらくして、マダム・ドゥ・ラ・トゥールと恋に落ち、結婚しようとする。が、実は、マダム・ドゥ・ラ・トゥールは叔母の遺産を継いで大金持ちになったマドレーヌその人だった・・・。というストーリー。とても愉快。音楽も楽しい。

 上演も見事。シャプルー役のマイケル・スパイアーズは高音も美しく、声に張りがあり、音程もいい。とてもいい歌手だと思う。コミカルな雰囲気も出している。マドレーヌを歌うフローリー・バリケットもきれいな声で、とてもチャーミング。マドレーヌとして歌うちょっと蓮っ葉な部分もマダム・ドゥ・ラ・トゥールとして歌う高貴な部分もとてもいい。コルシ侯爵のフランク・ルゲリネルも文句なく楽しい。ビジューのローラン・キュブラも、まるで漫画に出てくるような理想的な男性体形で、声も見事。

 セバスチャン・ルランの指揮するルーアン・ノルマンディ歌劇場管弦楽団も、輪郭のはっきりした健康的な音作りがとても魅力的だ。ミシェル・フォーの演出も実に楽しい。シャプルーらが重婚してしまったと慌てる場面など笑いを誘う。とてもおもしろいオペレッタだと思う。

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