波多野睦美「終わりなき歌」 イギリス的なブラームスとショーソンだった
2020年11月27日、王子ホールで波多野睦美 歌曲の変容シリーズ第14回を聴いた。「終わりなき歌~カルテットとの声の戯れ」とのタイトルのもと、波多野と弦楽四重奏の共演による演奏が中心だった。波多野睦美のメゾソプラノのほか、滝千春(ヴァイオリン)、直江智沙子(ヴァイオリン)、大島亮(ヴィオラ)、門脇大樹(チェロ)、草冬香(ピアノ)。
相変わらずの波多野の美声。ヴィブラートのほとんどない澄んだ声で、自然にのびのびと歌う。英語の発音が美しく、言葉が聞き取りやすい。詩を大事にしていることがよくわかる。知的な歌いまわし。波多野のトークが入るが、知性の豊かさがひしひしと感じられる。
曲目は、最初にブラームス(ライマン編曲)の歌曲集「オフィーリアの5つの歌」を英語で歌われた。ブラームスのこの曲は何度か聴いたことがあるはずだが、弦楽四重奏伴奏によって英語で歌われると、まったくブラームスという感じがしない。
そのほか、ヴォーン=ウィリアムズ歌曲集「ウェンロックの断崖で」やフィンジ作曲の歌曲集「小道や柵の脇を」、ガーニー作曲の歌曲集「ラドロウとテイム」から数曲ずつ、いずれも英国の歌。そのほかにヒンデミット「9つのイギリスの歌」。
また、ブラームスの弦楽四重奏曲2番の第1楽章とヒンデミットのヴィオラ・ソナタの終楽章も演奏された。最後にショーソンの「終わりなき歌」。
もちろん、悪くない。いや、素晴らしいといってよいだろう。だが、私は、ドイツ臭くないブラームスにちょっとびっくり。波多野さんの「オフィーリアの5つの歌」も、弦楽四重奏曲も、あっけらかんとしており、弦楽四重奏曲に至っては、甘美で流動的。私の好むブラームスのがっしりした構築性が極めて希薄。きれいな若い女性たちが楽しそうにブラームスを弾いている感じ。ブラームス特有の暗さや重さもあまりなく、少しイージーリスニングっぽい。
最後のショーソンも、フランスっぽさをあまり感じない。ショーソン特有の、やるせなく、憧れと諦めとため息にあふれたフランス的退廃が感じられない。かなり健康的なショーソンになっている。もしかしたら、イギリス的といえるのかもしれない。ドイツ的な深みもフランス的な濃厚な香りもなく、平明で率直。これはこれでとてもいいのだが、私の好きなブラームスやショーソンではない。
そんなわけで、やっぱり波多野さんはイギリスの音楽を得意とする人であって、少なくとも私好みのドイツ、フランスの音楽を演奏してくれる人ではなさそうなことに気づいた。
繰り返すが、これはこれで見事な演奏だと思う。ただ私のこれまで好んできた音楽の作りとはかなり異なっていたのだった。
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