映画「鵞鳥湖の夜」 フィルム・ノワールの形をとって躍進に取り残された人々の生をえぐる
映画「鵞鳥湖の夜」をみた。とてもおもしろかった。引き込まれてみた。
監督はディアオ・イーナン。中国の新鋭という。舞台は中国のたぶん南のほう。バイク窃盗団の抗争に巻き込まれて、誤って警官を殺してしまったチョウ(フーゴー)は仲間のつてで鵞鳥湖といううらぶれたリゾート地周辺に逃げ、妻とおちあおうとするが、そこに現れたのは仲介を頼まれた売春婦アイアイ(グイ・ルンメイ)だった。妻は出稼ぎに出たまま帰らぬチョウに愛想をつかしており、警察に密告している。チョウは傷を負いながら逃亡し、自分に身代金がかけられていることを知って、妻に密告させて妻子に金を残したいと考える。が、敵の窃盗団からも、警官からも狙われ、逃げ惑うしかない。結局、アイアイは妻に代わって密告し、その金を妻に渡すことを引き受ける。(ネタバレになるのでストーリーはこのくらいにする)。
フィルム・ノワールという宣伝文句だが、まさにその通り。主人公たちが躍進を歌い上げる看板を背に歩く場面に象徴的に表現される通り、ここは開発から取り残された薄汚れたリゾート地。場末の汚れたホテルやレストラン、そこでうごめくやくざ者や権力を笠に着る小物や底辺で懸命に生きる人々が描かれるが、その映像はまるで美術作品のように美しい。そうであるだけに、薄汚れた建物や品が良いとは言えない人々が圧倒的な存在感で迫ってくる。そして、けだるそうにしながらも、チョウと妻の間でうろたえつつも力になろうとするアイアイの姿を初々しく描いていく。フィルム・ノワールという形をとりながら、躍進から取り残されて生きる人々の生きざまをえぐっている。
鵞鳥湖に手を突っ込んで死ぬチョウの場面で、私はアンジェイ・ワイダの世紀の名作「灰とダイヤモンド」の主人公の死を思い出した。それに匹敵する壮絶な死だと思う。
鵞鳥湖というのは実在するリゾート地なのだろうか。まさに躍進する中国の負の部分を象徴するかのような土地に見える。一度行ってみたいと強く思った。
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