パブロ・エラス・カサド&N響の第九に興奮した
2020年12月27日、サントリーホールでNHK交響楽団による第九スペシャルコンサートを聴いた。指揮はパブロ・エラス・カサド。
第九の前に勝山雅世のオルガンによりバッハの「アリア」とコラール「主よ、人の望みの喜びよ」が演奏された。よい演奏かもしれないが、私としては第九だけのほうが嬉しい。主催者側にこのような曲目を置く理由があるのだろうか。
第九は素晴らしかった。興奮した。あまりなじみのない指揮者だと思っていたが、会場で顔をみて思い出した。この人の指揮する第九のCDを聴いた覚えがある。演奏が始まって、確かにこのような演奏だったことも思い出した。
古楽的な演奏だといってよいだろう。ヴィブラートが少なく、テンポが速い。昨日聴いた鈴木秀美の指揮と似たタイプだといってよいだろう。だが、もっと疾風怒濤。小気味よいほどに音が重層的に重なり合い、ぶつかり合って高まっていく。切れが良く、激しくうねる。だが、決して音が濁らない。N響は指揮者の指に応じて、瞬時に音楽の表情を変えて求心的に音楽を進めていく。
第1楽章がことのほか素晴らしかった。こんなに魂をえぐる第1楽章を初めて聴いたと思った。ぐいぐいと音楽を推し進めていく。私は心を引き裂かれそうになりながら、音楽とともに生き、音楽空間の中に精神を没入させた。何度か身体の奥の方から感動が押し寄せてきた。
第2楽章も大きく躍動した。神秘なものが跋扈する、そんな印象を受けた。清純そのものではない。魑魅魍魎とも言ってよいのかもしれない。だが聖なるもの。そのようなものが生命をもって音楽として躍動した。
第3楽章も美しかった。じわじわと音楽が高みに向かっていく。第1楽章、第2楽章と、天を仰ぎながらも地面をはいつくばっていた魂が、ここにきて天上に向かっていく。その上昇の物語を聴いている気になった。
そして第4楽章。レチタティーヴォ風の部分の手際もよく、歌の部分に突入。谷口伸の柔らかいバリトンの声に驚いた。まるでリートを歌うような語り掛ける歌。声も美しい。テノールの宮里直樹も張りのある美しい声でしっかりした音程で歌う。メゾ・ソプラノの加納悦子も明確な歌。そして、ソプラノの高橋絵理も美しくて伸びのある声が素晴らしい。三澤洋史合唱指揮の新国立劇場合唱団(40名ほどだった)も文句なし。
ワクワクするような音楽の高揚だった。我をなくしたくなるほど、私は心の喜びを感じ、叫びだしたいほどの気持ちになった。魂の爆発。最後はまさに祝祭。
これまで何度も第九の名演を聴いてきた。だが、今回は、これまでのすべての名演に決して劣らない超名演だと思った。少なくとも、私の大好きな演奏だった。感動のあまり涙が出てきた。スタンディングオベーションが起こった。私も立ち上がって拍手した。
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