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ヴァイグレ+読響の第九 ドイツ的だがしなやかな第九

 20201216日、東京芸術劇場で読売日本交響楽団「第九」特別演奏会を聴いた。私にとって今年最初の第九。指揮はセバスチャン・ヴァイグレ。コロナによる2週間の待機を終えて日本で演奏してくれるのは本当にありがたい。

 第九の前に、三原麻里のオルガンによるベートーヴェンの「笛時計のための5つの小品」からのスケルツォとアレグロ、そしてバッハ作曲とされるトッカータとフーガ ニ短調が演奏された。ベートーヴェンのほうは笛時計(当時はやっていた自動演奏装置らしい)のための、かなり他愛のない音楽だったが、十分に楽しめた。トッカータとフーガについては、改めて聴いて、よく言われる通り、きっとヨハン・セバスチャン・バッハの真作ではないだろうと素人ながら思った。どう考えても、このこけおどしは大バッハらしくないし、大バッハの深みがない。

 第九については、素晴らしかった。ヴァイグレの作りだしたのは、ドイツ正統派の第九といってよいだろう。小手先の小細工はまったくない。聞こえてくる音はまさしくドイツの音。深みがあり、落ち着きがある。だが、決して渋いわけではなく、しなやかで勢いもある。きっちりと構成を踏まえたうえで、しなやかに音を重ねていく。弦の音にとりわけ色気のようなものがあるのを感じる。ごつごつした男性的な第九ではなく、造形的な優美さのある第九といえるだろう。

 第一楽章も第二楽章も素晴らしかったが、私は何よりも第三楽章にうっとりした。それまでの二つの楽章はかなり速めだったが、この楽章は落ち着いたテンポだったと思う。コンサートマスターの長原幸太が美しい音を紡ぎ、しなやかに自然に天国的な音の響きを作っていく。鳥肌が立つほどの美しい箇所がいくつもあった。少しずつ盛り上がってファンファーレへとつながっていく。

 第四楽章も、形の崩れない音楽だった。知的にコントロールされているが、激しいところは激しいので、音楽が弛緩することがない。歌手陣は見事。とりわけ、バリトンの大沼徹は私がこれまで録音で聴いてきた名歌手たちに劣らぬ朗々たる声。ソプラノの森谷真理もとてもいいし、もちろん外国人勢(メゾ・ソプラノのターニャ・アリアーネ・バウムガルトナーも、テノールのAJ・グルッカート)も素晴らしい。新国立劇場合唱団もいい。コロナの精で人数を絞っていると思われるが、十分に声が出ていた。

 第四楽章後半はこのうえなく高揚した。しかし、そうであっても、我をなくすのではなく、あくまでも論理的だと思った。すっきりとまとまり、余計なものはなく、音楽の内部で高揚している。素晴らしい。私は大いに興奮した。

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コメント

初めて投稿します。
12月23日に大阪フェスティバルホールで聴きます。
このブログを読んで楽しみになりました。

投稿: arima | 2020年12月17日 (木) 08時00分

arima 様
コメント、ありがとうございます。
私は、ヴァイグレの演奏にとても惹かれたのですが、いかがでしょうか。お気に召されるとよいのですが。

投稿: 樋口裕一 | 2020年12月19日 (土) 21時02分

樋口様

セバスティアン・ヴァイグレ氏と読売日本交響楽団『第九』公演の御感想を記録して下さり、どうもありがとうございます。言葉で表すことが難しかったヴァイグレ氏の魅力を、色鮮やかな文章で御教授頂き、点と点(言葉と音楽)が繋がりました。私は19日の東京芸術劇場『第九』公演鑑賞となりましたが、ひとつひとつ御言葉に見惚れ、全てに共感致します。第三楽章は格別でした。長原氏、鈴木氏(日本のヴィオラのトップ3と仲間達は言います)、瀧村氏や遠藤氏と豪華なソリストが揃えばコロナ編成をものともしない力があり、感動致しました。それから東京芸術劇場の音響にも感謝です。少し長めの残響のコンサートホールとパイプオルガンが隠れた半響板が功を奏していたように思います。今年最後の公演がヴァイグレ氏と読響『第九』となり嬉しいです。

投稿: michelangelo | 2020年12月20日 (日) 16時41分

michelangelo様
コメント、ありがとうございます。
おほめにあずかったようで、恐縮です。ただ、思ったことをなるべくその通りに書こうと心掛けているだけですので、恥ずかしい限りです。
ブログ、拝見しました。私のほうこそ共感して読ませていただきました。あれほどの第3楽章のすばらしさを味わったのは、実に久しぶりでした。

投稿: 樋口裕一 | 2020年12月23日 (水) 14時24分

樋口裕一先生、あけましておめでとうございます。

僕は、樋口裕一先生のblogを読んでから、読響シンフォニックライブの第九を聴いて自宅にいながら感動することができました。

前にも申し上げましたが、読売日本交響楽団の演奏は僕もわずかながら聴いたことがあり、樋口先生の今回のblogは手助けになりました。ありがとう御座いました。

投稿: kum | 2021年1月 1日 (金) 15時13分

kum 様
コメント、ありがとうございます。
私のブログが何らかのお役に立っているとしますと、とてもうれしいことです。 本年もよろしくお願いいたします。

投稿: 樋口裕一 | 2021年1月 7日 (木) 09時56分

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