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オペラ映像「ローエングリン」「オベルト」「一日だけの王様」「第一回十字軍のロンバルディア人たち」

 年末から小論文参考書の原稿を書いていたが、昨日、編集者に送った。今週いっぱいはのんびりしたい。とはいえ、緊急事態宣言下とあって、外に出て遊びまわるのはなるべく避けたい。テレビで放送されていたのを録画した映画をみたり、音楽を聴いたりして過ごすしかない。何本かオペラ映像をみたので簡単な感想を書く。

 

ワーグナー 「ローエングリン」2018年 シュトゥットガルト州立歌劇場

 演奏面ではすばらしいと思った。歌手陣は充実。私は特にエルザを歌うシモーネ・シュナイダーに惹かれた。清純な美声ながら声の強さもある。自信なげな表情をしっかりと歌の載せながらもビンビンと響く。エルザにぴったりだと思う。オルトルートのオッカ・フォン・デル・ダメラウも、強い声が素晴らしい。フリードリヒのマーティン・ガントナーも自分の正義を貫こうとする役を見事に歌う。ハインリヒ王のゴラン・ユーリッチもこの役にふさわしい深いバスの声。伝令を石野繁生が歌っている。一音だけ声が途切れるのが残念だが、見事な歌唱。ほかの歌手にまったく引けを取らない。

 ただ、私としては題名役のミヒャエル・ケーニヒは美声なのだが、声が出ていない気がした。演出によるのかもしれないが、自信なげな、ぱっとしないローエングリン。作業服で現れ、おどおどしている。演出には適合しているのかもしれないが、ペーター・ホフマンやフォークトやカウフマンの外見とは比較のしようがない。

 指揮はコルネリウス・マイスター。起伏の大きいドラマティックな演奏。それはそれで説得力があるのだが、このオペラに特有のぞくぞくするような官能性と夢幻性はあまり感じなかった。

 演出については、私はよくわからなかった。ローエングリンは行きがかり上仕方なくエルザを弁護することになったのだろうか? 最後、群衆はオルトルートの肩を持ち、みんなでエルザに非難のまなざしを向けて終幕になる。どういうことだろう?どこかで伏線を見落としてしまったために、私に理解できないのだろうか。

 オーケストラ、合唱団に不満はないが、指揮者の背後に見える壁があまりに粗末なのが気になった。老朽化しているのだろうか。シュツゥットガルト歌劇場の前を通ったことがあるが、たしかにかなり地味な建物だったことを思い出した。

 

「オベルト」2007年 パルマ

 ヴェルディのオペラ映像全集(トゥット・ヴェルディ)を入手。ヴェルディのオペラを初期のものから少しずつみていくことにした。私は特にヴェルディ好きというわけではないので、初期のオペラは初めてみるものが多い。初心者風の感想になるが、やむを得ない。

「オベルト」はヴェルディの最初のオペラ。初めてみた。確かに、かなりぎこちない。台本のせいもあるのかもしれないが、やはり音楽そのものがぎこちない。次々とでくの坊のように中身の薄い人物が登場して歌を歌って交代していくような印象を受ける。

 とりわけ、この上演は若手中心なのか、歌手陣による人物の造形にあまり説得力がない。レオノーラを歌うフランチェスカ・サッスが特に学芸会的。必死に演じようとしているが、歌唱力も演技力も付いて行っていない。クニーツァ役のマリアーナ・ペンチェヴァも力演のわりに訴える力は弱い。オベルト役のジョヴァンニ・バッティスタ・パローディとリッカルド役のファビオ・サルトーリは、図抜けているとは言えないが、しっかりした歌唱。

 アントネッロ・アッレマンディ指揮のパルマ・レッジョ劇場管弦楽団については健闘しているといったところだろう。素晴らしい演奏とは言えないような気がする。

 とはいえ、ヴェルディの最初のオペラをあまりに立派に演奏するよりも、このように若手が必死に歌っているほうが、それにふさわしいともいえるだろう。ぎこちないながらも、必死にオペラを作り上げている様子が伝わり、初々しい。のちのヴェルディのオペラを思わせるようなメロディがふんだんにある。歯切れのいいメロディ、美しいメロディもあり、オーケストレーションも工夫にあふれている。感動してみることはできないが、ヴェルディの最初のオペラとして大変興味深くみることのできる上演だといえるだろう。

 

「一日だけの王様」2010年 パルマ

 初めてみた。騎士ベルフィオーレが一日だけポーランド王の影武者になり、若い男女の恋を成就させ、自分の恋もかなえるという喜劇。とてもおもしろかった。まるでドニゼッティのよう。「ウィリアム・テル」序曲のあの有名な行進曲を思わせるリズムがたびたび現れるので、ロッシーニも思い出す。

 ベルフィオーレ役のグイド・ロコンソーロが声も容姿も立派で申し分ない。しかも自在に歌い、みるものを引きつける。ポッジョ侯爵夫人のアンナ・カテリーナ・アントナッチも本当に素晴らしい。伸びのある美しい声で清潔に歌うが、容姿に色気があるので、エロティックに響く。ジュリエッタのアレッサンドラ・マリアネッリも清純な容姿と声でこの役にぴったり。エドアルド役のイヴァン・マグリは、容姿はジュリエッタの恋人にぴったりで、高音は強くて美しいが、時々音程が怪しくなる。

 ドナート・レンゼッティという指揮者は初めて知った気がするが、生き生きしていてとてもいい。パルマ・レッジョ劇場管弦楽団も特に不満はない。ピエール・ルイージ・ピッツィの演出も、かなりオーソドックスだと思うが、わかりやすくてきびきびしていて、とても愉快。気楽にみられる喜劇として、よくできていると思う。

 

「第一回十字軍のロンバルディア人たち」2009年 パルマ

「ナブッコ」の後の作品。明らかにヴェルディの方向性がはっきりと示されているのが、私のような門外漢にもよくわかる。ストーリー的には、盛り込みすぎで不自然なところが多いが、それはそれでドラマティックとはいえる。

 ジゼルダのディミトラ・テオドッシュウがやはり圧倒的に素晴らしい。強靭な美しい声で技巧も確か。ドラマティックに、しかもしっとりと歌う。オロンテのフランチェスコ・メーリも高貴な美声がとてもいい。愛し合うこの二人の場面は息をのむ。パガーノのミケーレ・ペルトゥージ、アルヴィーノのロベルト・デ・ビアージョともにしっかりした歌唱だが、圧倒的とは言えない。

 ダニエレ・カッレガーリの指揮のパルマ・レッジョ劇場管弦楽団は、勢いがあり、メリハリがあってとてもいい。演出はランベルト・プッジェッリ。ピカソの「ゲルニカ」などの名作絵画(あるいは、それに似たもの?)を背景に出して、メッセージを伝える。ストーリー的にはイスラム教にそれなりの敬意を払うふりをして、その実、まったくもってキリスト教徒にとっても虫のいい話なのだが、ヴェルディの時代としては致し方ないだろう。演出では、それを少々ぼかして、最後、十字軍の戦いの中で死んでいた者たちがよみがえって未来への希望を示すが、それはキリスト教とイスラム教の融和する未来への希望でもあるだろう。

 全体的にはとてもおもしろかった。

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