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東京二期会「サムソンとデリラ」 歌手陣もパスカル指揮の東フィルも素晴らしかった

 20211月6日、オーチャードホールで東京二期会コンチェルタンテ・シリーズ サン=サーンス「サムソンとデリラ」〈セミ・ステージ形式〉をみた。素晴らしかった。世界に通用するレベルだと思った。

 舞台構成は飯塚励生。背景にCGによる映像(という表現でいいのかな?)が映り、歌手たちはちょっとした小道具と演技を交える。それだけで十分に「サムソンとデリラ」の世界に導いてくれた。

 歌手陣は充実していた。とりわけ、デリラ(ダリラ)の池田香織、サムソン(サンソン)の福井敬がやはり素晴らしい。フランス語の発音もしっかりしているし、声が伸びている。魔性の女と純真な英雄を見事に歌っている。デリラは肉感的というよりも凄味のある女性、サムソンは豪傑というよりも律儀で一途な男という人物像だったが、これはこれで説得力がある。ダゴンの大司祭を歌う小森輝彦、アビメレクのジョン ハオ、老ヘブライ人の妻屋秀和もしっかりとわきを支えている。

 大島義彰の合唱指揮による二期会合唱団も見事にこのオペラの世界を作り出している。舞台奥で、しかも斜幕の後ろで歌いながら、しっかりと声が届いていた。

 私が最も感銘を受けたのは、マキシム・パスカルの指揮する東京フィルハーモニー交響楽団だった。昨年の公演予定ではジェレミー・ローレルの指揮とされていたが、コロナ禍のために延期され、パスカルに変更になったのだったが、スケールの大きなロマンティックな演奏で、蠱惑的で荘厳な雰囲気を見事に出している。東フィルは時々、信じられないほど雑な音を出すことがあるが、今回は精妙でしなやか。とりわけ第3幕のバッカナールの官能性は見事だった。

 第3幕終盤でガンジーやらアメリカのBLMの運動などの写真が映し出された。解放を叫ぶヘブライ人を現代の抑圧に苦しむ人々と重ね合わせたのだろうか。ただ、サン=サーンスの音楽はベートーヴェンのような解放の音楽ではないので、私は少々違和感を覚えた。私にはこのオペラは、サン=サーンス(一時期、交響曲やピアノ協奏曲を夢中で聴いていた)の異国趣味の表明、キリスト教社会の相対化に思えるのだが。

 とはいえ、全体的にはとても感動した。フランス・オペラがこれほどのレベルで演奏されたことは驚くべきことだと思った。

 帰り、渋谷の駅前を歩いたが、ふだんと同じように人でごった返しており、酔って大声で話す人も大勢目に入った。翌日に緊急事態宣言が発出されるので、今日のうちにと思って出かけたのかもしれないが、この様子では新型コロナウイルスが蔓延するのは当然だろうと思ったし、飲食店の時間制限もやむを得ないだろうと思った。危機感を抱いた。

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コメント

私も見て来ました。先生と全く同意見です。デリラが凄みのある女性、サムソンが律義で一途な男とはまさに言いえて妙と思いました。
そして先生もおっしゃるように、パスカルという指揮者がすばらしかったです。最近の若い音楽家にはほとんど馴染みがなく、パスカルという名前も初めて聞きました。しかも代役の代役です。期待値はほぼゼロでした。暗い舞台に背広姿で現れたときは、係員が現れたのかと思ったくらいです。それが振り始めたらいきなりオーケストラからすばらしい音が響き出したので、思わず姿勢を正しました。振りが大きく、最後まで持つのかと思いましたがもちろんそこはプロ、最後の最後まであの大振りで通していました。動作が大きいこともあって、彼がどんな音を要求しているか見ていてよくわかります。この人はこれからの注目株だとうれしくなりました。
簡素な舞台ながら、演奏会形式と違う雰囲気があって、妙な読み替え演出よりよほど「オペラ」として楽しめました。
高齢持病持ちの私はコロナが怖かったですが、出かけて正解でした。休憩も席でじっとしていたので、いつかロビーでお会いしたら声をかけようと思っていますが、今回もダメ7でしたね。

投稿: ル・コンシェ | 2021年1月 7日 (木) 16時47分

ル・コンシェ様
コメント、ありがとうございます。
マキシム・パスカルという指揮者、注目ですね。私もこれほど素晴らしいとは思っていませんでした。私としましては、このようなフランス的な響きを出してくれる指揮者がフランスオペラを日本で演奏してくれるととてもうれしく思います。
それにしても、感染拡大は深刻です。どうかお気を付けください。

投稿: 樋口裕一 | 2021年1月 9日 (土) 23時23分

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