ファウスト&メルニコフのシューマン 知的で感受性豊か
2021年1月23日、川口リリア・音楽ホールで、イザベル・ファウスト&アレクサンドル・メルニコフのデュオ・リサイタルを聴いた。
曲目は前半にシューマンのヴァイオリン・ソナタ第1番とウェーベルンのヴァイオリンとピアノのための4つの小品作品7、ブラームスのヴァイオリン・ソナタ変ホ長調作品120-2(クラリネット・ソナタ第2番のヴァイオリン版)、後半にシューマンのヴァイオリン・ソナタ第2番。
ファウストとメルニコフのデュオはこれまで数回聴いている。ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタの全曲演奏も聴いた。聴くごとに感動してきた。今回も感動。
ファウストの感情過多にならない、知的で高貴なロマンティズムが素晴らしい。メルニコフのピアノもしなやかで柔らかい音でありながら、強いところは強く、音の粒立ちが美しく、まさに感受性豊か。この二人の音楽は知的で感受性豊かになる。
シューマンの1番のソナタの第1楽章の前半はちょっと足並みが乱れた感じだったが、だんだんと盛り上がった。第2楽章はとりわけ素晴らしかった。繊細でチャーミングでロマンティック。二人の掛け合いが絶妙。第3楽章も起伏がありリズムが躍動。
ウェーベルンは切れの良いヴァイオリンの音でまさしく音の実験とでもいえるもの。ただ、音楽的教養がほとんどリヒャルト・シュトラウスの時代までで途切れている私にはこれ以上のことは言えない。
ブラームスのソナタについては、この曲のヴァイオリン版は初めて聴いたので、クラリネットの音とヴァイオリンの音で、これほどまでに印象が異なるのかと驚いた。クラリネットではあれほど枯淡の境地に聞こえる音楽が、少なくともファウストのヴァイオリンでは、それほど年寄り臭くなく響く。ただ、ヴァイオリンの音による印象の違いに戸惑っているうちに音楽が終わった。
最後のシューマンのヴァイオリン・ソナタ第2番は、実は私の苦手な曲だ。嫌いというのではないのだが、これを聴くとまさにシューマンの狂気の世界に誘い込まれる気がする。偏執狂的なこだわりというべきか、おなじ音形が執拗に繰り返されるので、聴いている私は耐えられなくなり、叫びだしたくなる。そのようなぎりぎりのところにあるロマン主義とでもいうか。
ファウストとメルニコフは、この狂気の世界を真に受けて真正面から再現しようとしているのではないように私には思えた。きっと二人とも、この曲の中にどっぷりとは浸かっていない。客観的にそれを見ながら、シューマンの世界を再現していく。その意味で少し限界があるような気がする。時折、ファウストが音楽を持て余している様子が見て取れる。しかし、鋭利な音が知的なシューマンを作り出す。とてもおもしろかった。
アンコールはシューマンの幻想小曲集作品73からの3曲。いずれも文句なしに素晴らしかった。知的で高貴な音でロマンティックで夢幻的な世界を描き出す。
シューマンの2番のソナタを聴いた後はいつもそうなのだが、家に帰り着くまで1時間あまり、頭の中で第4楽章の執拗に繰り返されるメロディが鳴り続けていた。
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