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オペラ映像「レニャーノの戦い」「ルイザ・ミラー」「スティッフェリオ」「ファルスタッフ」

 だいぶ感染者数は減ってきたとはいえ、コロナ禍は続く。私は日本語学校の校長の職にあるので、この状況が続いて外国人が来日できないのは致命的なほどに痛手だ。それに、94歳の母が施設にいるが、面会は禁止。誰にも会えずにいるために母の認知症が進んでいるらしい上に、このたび体調を崩して入院した。施設を出て病院に入院する合間に久しぶりに寝ている母の顔を見ることができただけで、病院でも面会禁止。気になるが、どうにもならない。本当にどうにもならない。同じような思いをしている人が世界中に大勢いるのだろう。

 仕方がないので、自宅で原稿を書いている。原稿につかれたら、音楽を聴いたり、テレビをみたり、オペラ映像をみたり。

 トゥット・ヴェルディの残りと、NHKで放送されたヴェルディのオペラ映像をみたので、簡単に感想を書く。

 

「レニャーノの戦い」 2012年 トリエステ・ジュゼッペ・ヴェルディ歌劇場

 このオペラを初めてみた。オペラそのものは、魅力的なメロディもたくさん出てくるし、アリアも美しい。登場人物の心情もわかりやすく、ドラマティックでありながらも無理な展開もなく、とてもいいオペラだと思った。

 歌手陣ではやはりリーダを歌うディミトラ・テオドッシュウが図抜けている。声がかすれるなどちょっとした瑕は何か所かあるが、そんなことを忘れるほどの歌唱力。引き込む力が抜群。ロランドのレオナルド・ロペス・リナレスもしっかりとした歌唱で感情の動きを歌う。アリーゴのアンドルー・リチャーズはなかなかの二枚目ながら声のコントロールが少し甘い。ちょっと不満を感じた。

 しかし、それよりなにより、私はボリス・ブロットの指揮するトリエステ・ジュゼッペ・ヴェルディ歌劇場管弦楽団に問題を感じる。少々情けない音が出てくるし、音楽が引き締まらないし、躍動していかない。きっと良い演奏で聴くと、このオペラはこうではないのでは?と思える箇所がいくつもある。私はしばしば欲求不満を抱いた。

 

「ルイーザ・ミラー」2007年 パルマ・レッジョ劇場

 ヴェルディ好きとは言えない私にはあまりなじみのないオペラだが、数年前、メトロポリタン劇場のライブビューイングでこのオペラの映像をみたことがある。「リゴレット」以降の傑作群があるために、このオペラはあまり知られていないが、それらがなかったら、これは十分にイタリアオペラの傑作として歴史に残っていただろう。とても劇的でとてもおもしろい。今回の映像をみて、いっそうそう思った。

 ルイーザのフィオレンツァ・チェドリンスとロドルフォのマルセロ・アルバレス、ミラーのレオ・ヌッチの3人が圧倒的。超一流歌手が三人集まるとこんなにすごいのかとあらためて痛感。チェドリンスは声が美しくてドラマティックなだけでなく、容姿も美しく、悲劇のヒロインにぴったり。演技力もあって引き込まれる。アルバレスも豊かな美声による抒情的な歌いまわしが素晴らしい。ヌッチは心の奥深くにある感情を掻き立ててくれる。

 伯爵のジョルジョ・スルヤンもしっかりした声で見事。ただ、ヴルムのラファル・シヴェクが私には少々不安定に聞こえる。この二人の悪役の二重唱など、ヴルム役の歌手の声がどす黒かったら、もっとぞくぞくしただろう。

 ドナート・レンゼッティの指揮するパルマ・レッジョ劇場管弦楽団については、もう少し切れの良い音を出してほしいと思う場面がなくはなかったが、全体的には特に不満はない。デニス・クリーフによる演出も極めて妥当なものだと思う。

 ともあれ、ヴェルディの手腕と三人の歌手の歌声だけで満足。

 

「スティッフェリオ」 2012年 パルマ・レッジョ劇場

 このオペラは、一度だけ映像でみたことがあるが、あまりに斬新な演出だったためにストーリーをよく理解できなかった。今回初めて納得してみた。とてもいいオペラだと思う。ヴェルディのほかのオペラとかなり趣が異なって、妻の不倫に悩み、許すべきかどうかで煩悶する牧師の物語。プロテスタントとカトリックの違いはあるものの、まるでモーリアックやジュリアン・グリーンのフランス小説のようだ。信仰に基づいて最後に妻を許そうとする。なかなかに説得力がある。

 演奏も見事。スティッフェリオを歌うロベルト・アロニカは伸びのある声で苦悩を歌いきる。妻のリーナを歌うのは中国人ソプラノ于冠群(ユ・ガンクン)。澄んだ美声で音程の良い声。今まで聴いてきた東洋人の歌い方とずいぶん異なる。外見的にも欧米人にまったく引けを取らない。素晴らしい歌手だと思った。スタンカーのロベルト・フロンターリも張りのあるしっかりした声で、娘の不義を嘆く父親を歌う。

 パルマ・レッジョ劇場管弦楽団を指揮するのはアンドレア・バッティストーニ。若々しくドラマティックでとてもいい。

 床一面に聖書のページが映し出されており、信仰の世界が示される。信仰に篤く、他人を許そうとする牧師の生真面目な葛藤が伝わるような演出になっている。

 

「ファルスタッフ」(NHKBS放送)20201月 ハンブルク国立歌劇場

 NHKBSプレミアムシアターで放送されたもの。カリスト・ビエイトの演出は、舞台を現代にとり、ポップで楽しく色彩的。明るくて楽しい。ファルスタッフが現代に生きているのを感じる。音楽と登場人物の動きがぴたりと合っている。

 何といってもアンブロージョ・マエストリがまさに現代のファルスタッフを演じている。かっこ悪く、醜悪で、だらしなく、ふてぶてしいが、どこか憎めない人物をみごとに作り出している。うまいというより、まさにそのもの。

 そのほか、私はアリーチェのマイヤ・コヴァリェフスカに強く惹かれた。余裕のある美声で自在に歌いこなす。容姿も魅力的、身のこなしもしなやか。まだあまり知られていない歌手だと思うが、これからが楽しみだ。また、ナネッタのエルベニータ・カイタージも澄んだきれいな声。そのほか、フォードのマルクス・ブリュック、メグのイダ・アルドゥリアンもとてもよかった。ただ、クイックリ夫人のナデジュダ・カリャジナが私にはちょっと不安定に聞こえた。

 指揮はアクセル・コーバー。メリハリのしっかりした音楽だと思う。舞台の色彩感に私の印象が引きずられたのかもしれないが、音楽もかなり色彩的に感じた。

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