新国立劇場「ワルキューレ」 様々な制約の中でも、素晴らしかった!
2021年3月17日、新国立劇場で「ワルキューレ」をみた。
手術後療養中の飯守泰次郎に代わって大野和士が指揮をし、歌手陣もコロナ禍のために日本人中心に変更、しかも、オーケストラピット内の間隔を確保するため、管弦楽縮小版を使用。もしかしたら、あまりレベルの高くない「ワルキューレ」になるのではないかと心配して出かけたが、どうしてどうして。素晴らしい上演だった。
まず、大野の指揮がいい。縮小版のオーケストラであるせいかもしれないが、室内楽的でしなやか。ワーグナー的な剛腕なところはないが、それはそれで流動的で十分にうねって、しかも官能的。東京交響楽団も柔らかくて伸びのある音を作り出して見事。ダレることがなく、ずっと緊迫感があり、しかも「歌」がある。
歌手陣については、やはりたった一人の外国人、ヴォータンのミヒャエル・クプファー=ラデツキーが図抜けていた。体格もよく、まさに神様に見える。気品ある声を見事にコントロールして歌う。第三幕はことのほか素晴らしかった。
ジークリンデの小林厚子、ブリュンヒルデの池田香織、フリッカの藤村実穂子も見事というしかない。小林は声量のある美声で健気なジークリンデを演じていた。池田は、太くて芯の強い声ながら、演技によって女丈夫らしくない子どもっぽさをだして、ドラマを盛り上げていた。きっとそのような演出なのだろうが、池田はそれを最高に演じていた。以前から素晴らしい歌手だったが、これほどまでの大歌手になるとは! 藤村は、まったく衰えない迫力ある歌唱。フリッカの凄味が伝わってきた。
ジークムントは第1幕を村上敏明、第2幕を秋谷直之が歌った。村上は素晴らしい美声なのだが、第一幕後半では声が出なくなって、いかにも苦しげ。本当はこの人が全幕を歌うのがベストなのだろうが、声が続かないので、第二幕は秋谷に譲ったということだろう。その秋谷は、堅実だが、やはり声の魅力では村上にかなわない。フンディングの長谷川顯はしっかりと悪役を演じていた。
ゲッツ・フリードリヒの「ワルキューレ」は、前にもみた。ただ、すべての幕でこれほど舞台が傾いていたのだったか。よく覚えていない。二人の対話の場面では、どちらが高い場所に行くことによってその威圧感を示している。現在からみると、かなりありふれた演出だが、やはり理にかなっている。第三幕には深く感動した。すでに結婚した娘を持つ身としては、この場面は涙なしにはいられない。
コロナ禍のために、日本人中心のキャストになってしまったとはいえ、逆に言えば、日本人にこれだけ歌えることを示すチャンスになったともいえるだろう。ともあれ、大変感動して帰宅したのだった。
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