新国立劇場オペラ研修所修了公演「悩める劇場支配人」を楽しんだ
2021年3月7日、新国立劇場オペラ研修所修了公演、チマローザ作曲のオペラ「悩める劇場支配人」をみた。私はこの団体の修了公演を楽しみにしている。今回は、チマローザの珍しいオペラということで、いつも以上に楽しみにしていた。
私はこのオペラはCDでは聴いてみたが、もちろん実演は初めて。映像でもみたことがない。今回のプログラムでストーリーを初めてしっかりと理解できた。
きれいなメロディが次々と出てくる。ただ、作曲そのものの問題なのか、演奏によるのか定かではないが、どうしても平板な気がしてしまう。登場人物のキャラクターも音楽で明確に示されない。ほかの登場人物が歌ってもかまわないのではないかと思えるような歌が続く。せっかく美しい歌の連続なのに、盛り上がっていかない。
プリマドンナたちのつばぜり合いや、作曲家と詩人の不仲、契約金の請求などに嫌気がさした劇場支配人が逃げ出し、叔父の遺産を受け取った別の人物が変わって劇場支配人になるまでを描く喜劇だが、その苦悩もおかしみも伝わってこない。そのあたりが、チマローザとモーツァルトのいかんともしがたい差といえるのかもしれない。
歌手陣はきちんとまとめていた。とても健闘していたといえるだろう。劇場支配人の井上大聞は音程もよく、なかなかの芸達者。全体を引き締めてくれた。フィオルディスピーナの井口侑奏、メルリーナの和田悠花、ドラルバの杉山沙織はいずれも容姿も美しく、声もきれいなのだが、音程がびしりと決まらず、重唱部分もきれいなハーモニーにならない点が気になった。詩人の仲田尋一、作曲家の増田貴寛、ストラビーニオの森翔梧も十分に健闘しているが、やはり音程の甘さが気になった。
新国立アカデミーアンサンブルを指揮するのは辻博之。少し安全運転を意識しすぎるような演奏だった。きっと歌手の力量などの事情があったのだろうが、もっと盛り上げたり、起伏をつけたりするほうが楽しめたと思う。
演出は久恒秀典。メルリーナとドラルバが、まるでモーツァルトの「コシ・ファン・トゥッテ」のフィオルディリージとドラベッラのように同じような衣装だった。人間の識別が苦手な私は声域でしか区別できず、かなり困った。きっと意図的にそのような演出にしたのだと思う。登場人物を音楽によって特徴づけられていない点を逆手にとって、むしろ類似性を強調したのかもしれないが、私はあまり効果的とは思わなかった。
と、あれこれ言いつつ、実はとても楽しんだ。美しいメロディを楽しめたし、伸び盛りの若手の歌を聴くこともできた。そして何より、チマローザのオペラの実演を楽しむことができた。これから、あちこちの団体が、チマローザやパイジェッロやメルカダンテやサリエリやケルビーニなどのオペラを上演してくれると、こんなうれしいことはない。
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