新国立劇場「夜鳴きうぐいす・イオランタ」 日本人中心で健闘
2021年4月4日、新国立劇場オペラパレスで「夜鳴きうぐいす(ストラヴィンスキー)」と「イオランタ」(チャイコフスキー)をみた。
「夜鳴きうぐいす」(ロシニョル)の実演をオペラとしてみるのは初めてだと思う(コンサート形式では聴いた記憶がある)。とても楽しめた。
ヤニス・コッコスの演出は、大胆な色遣いの影絵とでもいうような舞台にファンタジー感いっぱいに繰り広げられる。登場人物の衣装も、京劇風だったり、歌舞伎風だったり。機械仕掛けの偽の夜鳴きうぐいすは、日本製のロボットとして登場。
演奏に関しても、私はまったく不満はなかった。私は夜鳴きうぐいすの三宅理恵と料理人の針生美智子に特に感銘を受けた。三宅はこの役にふさわしい清潔できれいな声。音程がよく声が伸びる。見た目もとてもチャーミング。針生も研ぎ澄まされた美声で、躍動する声が見事。漁師の伊藤達人、中国の皇帝の吉川健一、死神の山下牧子もしっかりと歌っていた。舞台の動きもとてもコミカルでおもしろい。
指揮は高関健。オーケストラは東京フィルハーモニー交響楽団。私は、「夜鳴きうぐいす」についてはかなり精妙な音でまとまりもよく、とても良い演奏だと思った。
40分の休憩の後、「イオランタ」。
ただ、私は「イオランタ」については少々不満を覚えた。
歌手に関しては、イオランタの大隅智佳子とマルタの山下牧子は見事だと思った。とりわけ大隅は、圧倒的な声で抜きんでている。一人の声だけがビンビンと響き、しかも訴える力を持っている。ただ、ちょっとぶら下がり気味の音程だったのが気になった。
それに対して、私は男声の弱さを感じた。ヴォデモンの内山信吾は声が無理やり振り絞っている感じだった。ルネ王の妻屋秀和も声量はあるが、音程が甘いのを感じた。エブン=ハキア役のヴィタリ・ユシュマノフも音程はしっかりしていたが、いかんせん声が出ていなかった。ロベルトの井上大聞とアルメリックの村上公太は健闘していたが、それでも魅力を感じられなかった。
高関指揮の東フィルも弛緩しているように思える箇所があった。せっかくのチャイコフスキーの美しいメロディなのに、イオランタの悲しみがしっとりと伝わらず、イオランタの目が見えるようになったときの光の賛歌も盛り上がっていかなかった。今日が初日であるため、まだ十分に歌手とオケの微妙な息遣いが出来上がっていないのかもしれない。
演出についてはとても魅力的だった。舞台は簡素で、背景に太陽を象徴するような円形が作られ、その周囲に影絵のような木々が見える。このイオランタの暮らす場所が、事実から目を背けた虚構の世界であることを強調している。最後、この虚構の舞台がすべて崩壊されて物語が終わるのではないかとひそかに期待していたが、そんなことはなかった。目の不自由から脱却しても、やはりイオランタは虚構の中に暮らしているのかも…という余計な詮索をしてしまった。
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コメント
私は昨日観てきました。両作品ともおもしろかったですね。このコロナ禍で世界中の(?)歌劇場が閉まっているなかで、こんな珍しいオペラを観ることができて幸せでした。
投稿: Eno | 2021年4月12日 (月) 15時50分
Eno 様
コメント、ありがとうございます。
ブログをしばしば拝見しております。「夜鳴きうぐいす・イオランタ」についてもとても興味深く読ませていただきました。
「イオランタ」はかなり好きでして、ザルツブルク音楽祭を含めてこれまで四回ほど実演をみていますが、いずれもコンサート形式だったり、ピアノ版だったりでした。完全版を初めてみて、やはりとてもいいオペラだと改めて思ったのでした。ただ、ザルツブルクでネトレプコのイオランタを聴きましたので、どうしてもほかの歌手が歌うと厳しくなってしまいます。
投稿: 樋口裕一 | 2021年4月14日 (水) 14時22分
樋口様
ネトレプコですか! すごいんでしょうね。私は残念ながらネトレプコは一度も聴いたことがないのですが、聴いた方の話によると、みなさんメロメロでした。
投稿: Eno | 2021年4月14日 (水) 15時32分
Eno様
ネトレプコにつきましては、15年ほど前、メトロポリタン・オペラの来日公演「ドン・ジョヴァンニ」のドンナ・アンナを聴いて、ただ容姿が良いだけではない、とてつもない歌手だと認識したのでした。それ以来のファンです。
ザルツブルクの「イオランタ」はコンサート形式で、ただ赤と白のバラが数本置かれているだけでしたが、ネトレプコがそれらのバラを手に取ると、その歌唱、そして手の表情、顔の表情から、オペラの情景が目の前に描かれていくように思えたのでした。私ももちろんメロメロになりました。
投稿: 樋口裕一 | 2021年4月15日 (木) 15時33分