東京・春・音楽祭2021 ブラームスの室内楽 クラリネット五重奏曲はヴィオラでも素晴らしかった!
2021年4月3日、東京文化会館小ホールで、東京・春・音楽祭2021 ブラームスの室内楽Ⅷを聴いた。新型コロナウイルスが感染拡大を続けているために、次々といくつもの公演が中止にされた今回の音楽祭の、私にとって最初のコンサートだ。
曲目は、前半にブラームスの弦楽五重奏曲第1番、後半にクラリネット五重奏供養(ヴィオラ版)。演奏は、加藤知子(第一ヴァイオリン)、矢部達哉(第二ヴァイオリン)、川本嘉子(ヴィオラ)、横溝耕一(ヴィオラ)、向山佳絵子(チェロ)。まさに日本を代表する演奏家たちだ。
最初の音が聞こえたとき、柔らかくてしなやかな響きに驚いた。ブラームス特有の重心の低い落ち着いた音と言ってよいだろう。とても心地よい。最近の欧米で広まっているような緊密で密度の高い躍動するアンサンブルではなく、もっと潤いのある響きだ。やはりブラームスはこうでなくっちゃ!
ただ、第1・2楽章では、あまり推進力がないのに、私は少し不満を感じていた。加藤さんがあまり強いリーダーシップをとっていないのか、中心的なものがないような気がした。素晴らしく美しい音であり、知的なアプローチであり、私はとても心地よいのだが、なんとなくみんなで音を合わせているような雰囲気があって、訴えてくる力を感じない。そう思っていた。しかし、最終楽章になって、芯になるものができたように思った。音楽が動きを持ち始め、躍動を始めた。意図的にそのように音楽を組み立てたのだったのだろうか。大きく盛り上がって音楽は終わった。
後半のクラリネット五重奏曲は、まさしく名演だと思った。聴きなれたクラリネットではなく、ヴィオラなので、かなり雰囲気が異なる。ヴィオラだと、必然的にほかの四台の弦楽器と溶け合ってしまう。突出した音色にならない。そして、クラリネット特有のピコピコピコピコといった音が出ない。だが、ヴィオラであるがゆえに良さもあった。第二楽章のロマ風の音楽の部分、ロマの人たちが得意とする弦楽器であるがゆえに、いっそうロマ風に響いて人生の哀歓が際立つ。
しなやかな音の上に、クラリネットのパートを弾くヴィオラが乗って、苦しみと悲しみと喜びと寂しさなど、あらゆる感情の入り混じった思いを歌い上げる。そして、それが最後、ほかの弦楽器の音の中に消えていく。実に美しいと思った。
クラリネット五重奏曲はブラームスの室内楽の最大傑作だと思う。いや、それどころか、すべての作曲家の室内楽作品の中でも出色の一作だと思う。今日の演奏を聴いて、その思いをいっそう強めた。
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