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古いイタリア映画「噴火山の女」「敗北者たち」「婦人代議士アンジェリーナ」「1860年」「白い船」

 安売りDVD10枚組イタリア映画コレクションの残りをみた。簡単に感想を記す。

 「噴火山の女」 1950年 ウィリアム・ディターレ監督                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       ヴルカーノというシチリア島の近くにある小さな火山島を舞台にした物語。ナポリで娼婦として働いていたマッダレーナ(アンナ・マニャーニ)が18年ぶりに島に帰り、妹のマリア(ジェラルディン・ブルックス)と暮らし始める。だが、村人たちは二人を邪険に扱い、マリアを追い出そうとする。仕事を失った姉妹はドナートという流れ者(ロッサノ・ブラッツィ)の手伝いをするが、マリアはドナートに恋してしまう。ドナートがマリアをくい物にして売り払おうとしていると気づいたマッダレーナは妹を守るためにドナートを殺し、みずからもちょうどそのときに起こった噴火の中で命を失う。

 ロッセッリーニの「ストロンボリ」とストーリーも雰囲気もよく似ている。意識して作られたのだろう。過酷な自然の中で暮らす島の人々を背景に、閉鎖的な社会、その中で神に救いを求めながら生きる二人の姉妹(二人の名前は、マッダレーナ=マグダラとマリア)が描かれる。まさしく永遠の自然の中での信仰、人間の営み。島人の生活にリアリティがあり、マニャーニの演技に説得力があって、心を動かされる。とてもいい映画だと思った。

 

「敗北者たち」 1953年 ミケランジェロ・アントニオーニ監督

 アントニオーニの初期作品。私はアントニオーニが大好きなのだが、この映画は初めてみる。

 フランスとイタリアとイギリスを舞台にした三つの独立した短い物語から成る。フランス編は、裕福な友人を銃殺して金を奪おうとした若者、イタリア編は裕福な家に育ちながら密輸にかかわって人を殺し、自らも重いけがを負って死んでしまう若者、イギリス編は自ら殺害した娼婦の死体を発見したとして新聞に売り込み、有名になろうとし、結局は自分が殺したことを告白して悦に入る若者が描かれる。いずれも、まさに敗北者たち、つまりは空虚な自分に耐えられず、何かを満たそうとして敗れていく若者たちといえるだろう。

 私はイタリア編にとても感銘を受けた。のちのアントニオーニの映画の空虚感がしっかりと現れている。殺人を犯した後、体の不調を感じながら、閑散とした道を歩き、競技場のベンチに寝転がって、そばにいた少女に心配の声をかけられ、その後、恋人の運転する車の助手席に乗る。その状況を描く映像の雰囲気は1960年代から70年代にかけて、まさに私が感じていた空虚感だ。そして、それは今の私とも無縁ではない。このような映像そのものに私は感動する。

 大戦直後の、食べるための犯罪から、心の空虚も満たすための犯罪へと社会の犯罪が変化していた時期、それを見事に察知した作品と言えるだろう。最初と最後に作成意図を語るようなナレーションが入る。言わずもがなの内容だが、若者の心に寄り添いすぎて、不正義に加担する映画のように思われるのを交わすための方便としてのナレーションに思われる。

 これを見て、自分が心からアントニオーニ好きだということを改めて確認した。

 

「婦人代議士アンジェリーナ」 1947年 ルイジ・ザンパ監督

 痛快でおもしろい映画。ただ、アンナ・マニャーニ演じるアンジェリーナが女性代議士になって活躍する話かと思っていたら、実際には代議士にはならない決意をする話だった。

 貧民街で暮らす5人の子持ちのアンジェリーナは、庶民への配給を渋るパスタ屋の闇商売を告発したのをきっかけに政治に目覚め、警察官の夫の反対にもかかわらず、貧しい人々のリーダーとして生活改革に乗り出す。貧民街が洪水に襲われたのをきっかけに、近くに建設中の団地に入居できるようにという運動を始める。問題がこじれて逮捕されるが、結局は周囲の理解を得て釈放される。貧しい人たちの圧倒的な支持を受けるので、周囲はアンジェリーナが議員になって活躍することを期待するが、本人は権力を持つことを拒み、家族を大事にする市民の一人として政治にかかわりながら生きていくことを選ぶ。

 マニャーニが、お節介で愛情深くておしゃべりで、社会的な不正義には黙っていられないで敵とまっすぐに戦うイタリアの女性を見事に演じている。戦後すぐのイタリア社会の矛盾もさらけ出して社会はドラマ風のところもあるが、ユーモラスでもあり、痛快なサクセスストーリーでもあるので、楽しく気楽にみることができる。みながら、なるほど、これがヨーロッパの民主主義の強さだと、改めて思う。

 

1860年」 1933年 アレッサンドロ・ブラゼッティ監督

 シチリア島に暮らす男性トリネロを中心にして、ガリバルディの千人隊がシチリア島に入り、島民とともに戦ってブルボン軍を撃退し、イタリア統一を進める様子が描かれる。2000人の素人を使って撮影した、ネオ・レアリスモの先駆けといわれる映画だ。

 新婚の妻を置いて使命を成し遂げようとするトリネロの葛藤は描かれるが、情緒にも流されず、心の中に入るこむことはあまりない。リアリズムに徹しており、歴史上の英雄ガリバルディについても、きちんと登場して人間像が描かれるわけでもない。そのため、戦闘場面などとてもリアルなのだが、劇映画としての盛り上がりには欠ける。

 私は30年以上前に、ガリバルディの伝記を訳したことがある(『イタリアか、死か 英雄ガリバルディの生涯』米川良夫先生との共訳)ので、当時はかなりイタリア統一運動について詳しかったが、今ではすっかり忘れてしまった。よって、この映画の細部について、よく理解できないところがあった。

 イタリア人ならこの映画に熱狂するかもしれないが、現在の日本人が見ると、あまり面白いとは思えない。

 

「白い船」 1941年 ロベルト・ロッセリーニ監督

 ロッセリーニ監督第一作。海軍省から委託されて、病院船の活躍を描いたものだという。文通相手である兵士慰問の女性と初めて出会うことになっていた兵士は、待ち合わせの場所に行こうとするが、外出が禁止になり、すぐに出港。海戦で負傷する。船内で緊急手術を受けて病院船に移送されるが、そこでボランティアの看護師として偶然、担当になったのが、待ち合わせをすることになっていた女性だった。

 そのようなラブロマンスを交えて描かれるが、さすがロッセリーニというべきか、リアルな戦闘場面の緊迫感が素晴らしい。本物の水兵を使って撮影されたというが、そのせいもあってあまりにリアル。映像のリズム感も見事で、みる者はぐいぐいと引き込まれる。第二次大戦のイタリアの状況は複雑なので、いったいこの船がどの海域でどんな敵と戦っているのかよくわからない。しかも、ドラマ風に登場人物に感情移入させる工夫はほとんどない(そもそも顔の認識の苦手な私は同じ制服を着た兵士たちを識別できない!)。それなのに映像を見ているだけで、ハラハラする。まさに映像のリアリティの力だろう。

 映画として特に面白いとは思わなかったが、ロッセリーニの底力を思い知った映画ではあった。

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