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新国立劇場「ドン・カルロ」 コロナ禍の素晴らしい上演

 2021526日、新国立劇場で「ドン・カルロ」をみた。素晴らしい上演。コロナ禍でこれだけのものがみられるとは!

 歌手陣はとても充実していた。私が何よりもうれしい驚きを覚えたのはロドリーゴの髙田智宏だった。世界一流のロドリーゴ歌手にまったく劣らない。気品のある堂々たる声とそれにふさわしい演技だと思う。ドン・カルロ役のジュゼッペ・ジパリを食っていたといっても言い過ぎではないだろう。死の場面など感動的だった。

 エリザベッタの小林厚子も素晴らしかった。私はこれまで何度かこの人の実演に接して、その実力のほどは知っているつもりだったが、エリザベッタはこれまで以上に適役だった。澄んだ声だが、会場中にビンビンと響き渡る。エリザベッタのふさわしく立ち居振る舞いも気品としとやかさにあふれている。第四幕のアリアはまさに絶唱。

 エボリ公女のアンナ・マリア・キウリもみごとな公女ぶり。凄味のある声で音程もいいし、情熱的な歌いぶりもいい。容姿も美貌を誇るこの役にふさわしい。

 ドン・カルロのジュゼッペ・ジパリももちろん悪くはなかった。きれいな伸びのある声は見事だった。ただ、風采や歌いぶりに若々しさがなく、くたびれたドン・カルロになっていたのが残念。意図的にそのような演技をしていたのではないと思うのだが。フィリッポ二世の妻屋秀和と宗教裁判長のマルコ・スポッティもしっかりと歌ってドラマを盛り上げた。「天よりの声」の光岡暁恵もとてもきれいな声、テバルドの松浦麗も好演。三澤洋史合唱指揮による新国立劇場合唱団もいつも通り見事な声と動き。

 マルコ・アルトゥーロ・マレッリの演出は灰色の巨大な壁を動かして舞台を作っていた。壁と壁の隙間によって十字架を作り出し、このオペラの背景にあるゆがんだキリスト教を浮き彫りにしていた。第2幕の火刑の場面では、合唱団を含む登場人物たちが薪を手に手に火刑台に運ぶ様子が描かれ、これが日常的なものであることをほのめかしていた。壁の動きによって人間関係や心理を表現して、とてもおもしろいと思った。

 指揮はパオロ・カリニャーニ。冒頭部分では、少し東フィルを掌握しきれていない感じで、もたついていたが、すぐに立て直し、後半は見事に音楽を推し進めていった。フィリッポ二世の嘆きのアリアの部分はチェロとヴァイオリンの音が実に美しく、第三幕以降はドラマティックな盛り上がりも見事だった。素晴らしい指揮者だと思う。東フィルも大健闘。

 コロナ禍の中なので、練習不足などで密度の低い上演になるのではないかと懸念していたが、とんでもない。これまでの新国立の歴史の中でも有数の見事な上演になっていると思った。私は何度か感動に震えた。来日できない外国人歌手を日本人歌手が十分にカバーしている。いや、それどころかコロナ禍を日本人歌手のアピールのチャンスにしている。うれしいことだ。

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コメント

大変ご無沙汰しています。

そしてびっくり、先週は樋口様と同じオペラを二つ見ていました。
この節、オペラやコンサートに出かけてもあまりウロウロしないので
お会いできないのも当然ですが。
二期会のセルセと、新国立劇場のドン・カルロです。
両公演とも、感想も同じでした。
セルセは、久しぶりのバロックオペラに
ちょっと期待して行ったのが間違いでした。
バロックだったのは、オーケストラだけでした。
ドン・カルロは、キャスト変更続きで期待値下げて行きましたが、
こちらは十分満足して楽しみました。
日本人の歌手の皆さんも本当に上手くなられたものです。
オーケストラもオペラの演奏に精通されてきた気がします。
コロナの中でも、皆さんの工夫でコンサートやオペラが
ある程度安全に楽しめるようになって、嬉しい限りです。
またどこかのホールでお会いできるのを楽しみにしております。

投稿: 中島 和 | 2021年5月31日 (月) 11時20分

大変ご無沙汰しています。

そしてびっくり、先週は樋口様と同じオペラを二つ見ていました。
この節、オペラやコンサートに出かけてもあまりウロウロしないので
お会いできないのも当然ですが。
二期会のセルセと、新国立劇場のドン・カルロです。
両公演とも、感想も同じでした。
セルセは、久しぶりのバロックオペラに
ちょっと期待して行ったのが間違いでした。
バロックだったのは、オーケストラだけでした。
ドン・カルロは、キャスト変更続きで期待値下げて行きましたが、
こちらは十分満足して楽しみました。
日本人の歌手の皆さんも本当に上手くなられたものです。
オーケストラもオペラの演奏に精通されてきた気がします。
コロナの中でも、皆さんの工夫でコンサートやオペラが
ある程度安全に楽しめるようになって、嬉しい限りです。
またどこかのホールでお会いできるのを楽しみにしております。

投稿: 中島 和 | 2021年5月31日 (月) 12時23分

中島 和 様
コメント、ありがとうございます。ご無沙汰しています。
「セルセ」「ドン・カルロ」ともに、同じような感想を持った方が多いようです。
「ドン・カルロ」は、これからの日本のオペラに期待を持たせるものでしたね。うれしい限りです。
またコンサート会場でお会いできるのを楽しみにしています。

投稿: 樋口裕一 | 2021年6月 1日 (火) 16時49分

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