二期会ニューウェーブ・オペラ劇場「セルセ」 期待していたが、楽しめなかった
2021年5月22日、めぐろパーシモンホールで二期会ニューウェーブ・オペラ劇場「セルセ」をみた。期待していたのだったが、残念ながら期待ほどではなかった。
私が最も問題に感じたのは中村蓉の演出だった。一人の歌手にほぼ三人のダンサーがはりついて、歌手が歌っている間、横で手足を動かし、心情を表現したりパントマイムをしたりしてリズミカルに踊る。ダンス好きにはよいのかもしれないが、私のようにダンスに興味のない人間には、これらは邪魔に思えて仕方がなかった。
しっとりした歌の場合、じっくりと耳を傾けたいのに、バタバタと踊っている。しかも足音が聞こえて音楽の邪魔をする。15年ほど前にシャトレ座で上演されたラモー作曲の「レ・パラダン」のダンスがふんだんに入った演出は衝撃的だった(私はDVDでみた)。今回の上演もその系譜に属するものだろう。だが、こう言ってはナンだが、ダンスも「レ・パラダン」ほどには上手でないような気がするし、オペラそのものの性格が異なる。ヘンデルの「セルセ」でこのようなバタバタしたダンスでは音楽を壊すだけだ。
また、喜劇仕立てにして、笑わせようとしていたり、ポップにしようとしていたりするのも私にはあまり効果的と思えなかった。素人漫才を見るような痛々しさを感じた。センスの良い笑いをもたらすのがいかに難しいかを改めて痛感した。
声楽面もあまり高レベルではなかった。多くの歌手の音程が不安定で、安心して聴いていられなかった。その中では、ロミルダの牧野元美とアタランタの雨笠佳奈が音程がしっかりしており、声が伸びていると思った。
歌手たちもダンサーに交じって踊っていた。素人が見ても、かなりどたどたした踊りなのだから、私は歌手陣に踊らせることにも問題を感じた。もしかしたら、踊りのできる歌手を今回の役に抜擢したのだろうか。そうだとすると、本末転倒だと思った。踊りに力を入れるよりは、音程よくしっかりと歌ってほしい。
唯一すばらしいと思ったのは、鈴木秀美の指揮するニューウェーブ・バロック・オーケストラ・トウキョウ(NBO)だった。これは文句なし。美しい音で、バロックの世界を作り出したい。来たかいがあったと思った。
このところの二期会の充実ぶりはよく知っている。世界レベルの公演を続けている。だが、もちろんコロナのための練習不足、準備不足もあったのだろうが、若手中心の今回の上演については、私は納得できなかった。
| 固定リンク
« グラインドボーン音楽祭のボックス「カルメン」「ジャンニ・スキッキ」「けちな騎士」「愛の妙薬」「ファルスタッフ」 | トップページ | ロベール・ブレッソンの映画「ブローニュの森の貴婦人たち」「田舎司祭の日記」「バルタザール、どこへ行く」 »
「音楽」カテゴリの記事
- ルイージ&メルニコフ&N響 良い演奏だが、私の好みではなかった(2022.05.21)
- METライブビューイング「ドン・カルロス」 フランス語版の凄味を感じた(2022.05.17)
- バーエワ&ヤノフスキ&N響 苦手な曲に感動!(2022.05.14)
- Youtube出演のこと、そしてオペラ映像「パルジファル」「シベリア」(2022.05.10)
- ヤノフスキ&N響 「運命」 感動で身体が震えた(2022.05.08)
コメント
私も同じ。全く同じです。
私も、感想ブログを書いていますが、浮かんだ文章まで同じです。
前回、演出補でダンスを演出したのが良かったので期待して行ったのですが、バロックオペラならぬダンスオペラ(そんなのありませんが)?で、ダメ。
唯一、《オンブラマイフ》を、最後にもう一度歌ったので、演出意図が分かりましたが。
テレビインタビューなど、もう陳腐。扇子風の小道具も中途半端。遠くまで出掛けた甲斐がありませんでした。
投稿: 感動人 | 2021年5月23日 (日) 08時34分
感動人様
コメント、ありがとうございます。遠くからおいでになったのでしたら、きっとかなりがっかりなさってでしょうね。
最後に「オンブラ・マイ・フ」に歌われたのは、このオペラのテーマを「自然環境を大事に。生命を大事に」というメッセージにしたということでしょうね。でも、とってつけたようで不自然に感じましたし、それ以上に、声楽的な弱さを最後にわざわざ強く印象付けているように感じたのでした。
投稿: 樋口裕一 | 2021年5月23日 (日) 23時07分