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オペラ映像「ラインの黄金」「フィデリオ」「リゴレット」「ルクレツィア・ボルジア」

 ゴールデンウイーク。一昨年まではラ・フォル・ジュルネに通っていた。昨年に続いて、今年もラ・フォル・ジュルネは開催されない。自宅で音楽を聴き、オペラ映像をみて一人で楽しむしかない。オペラ映像を4本みたので感想を記す。

 

ワーグナー 「ラインの黄金」 2010年 ブルガリア、ソフィア国立歌劇場

 ソフィア国陸歌劇場は歴史のある劇場だ。私は昔、この劇場のメンバーによる「エフゲニー・オネーギン」のレコードを愛聴していた。この歌劇場の実演もみたことがある。そんなわけで、ソフィア国立歌劇場による「リング」がBDで発売されるというので期待していた。

 だが、正直に言ってあまりよい上演ではなかった。まず、録音に問題を感じた。昔、観客がこっそり録音した非正規盤のレコードが出回っていたが、それと同じような音質だ。こもり気味で、オーケストラも声も鮮明に聞こえない。

 そして、これも録音の仕方にもよるのかもしれないが、オーケストラと声のバランスが良くない。タイミングもしばしばずれる。オーケストラ自体も時々情けない音を出すし、歌手陣も決して高レベルではない。私が思うに、エルダ役のブラゴヴェスタ・メッキ=ツヴェトコヴァだけが世界レベルで、ほかの歌手たちはきっと世界で活躍している人ではないだろう。指揮はパヴェル・バレフというが、特にタクトの冴えは感じなかった。

 プラメン・カルタロフによる演出についてはおもしろいと言えばおもしろい。ラインの乙女たちはトランポリンではねながら歌う。よくぞこれほど上手にトランポリン運動ができるものだと感心はするが、そんなことをしながらしっかりとワーグナーを歌えるはずがない。私としては声楽面を重視してほしい。そのほか、漫画的なキャラクターと機械仕掛けの様々な道具が登場するが、だからと言って斬新な解釈があるとは思えなかった。

 結局、奇をてらった演出とかなり雑な演奏によるワーグナーになってしまっていた。

 

ベートーヴェン 「フィデリオ」2008年 チューリヒ歌劇場

 私はHMVオンラインで買い物をすることが多い。HPをみていて、オペラBDDVDの安売りを見つけた。なんと1290円でハイティンク指揮の「フィデリオ」のBDが入手できるなんて! 「フィデリオ」はいくつもの映像を持っているが、この映像はみたことがなさそうなので購入してみた。

 私の耳のせいだろうか、第一幕前半で、ハイティンクの指揮が少し前のめりになっているのを感じた。歌手とうまくかみ合っていない。が、すぐに修正された。例によって、一歩一歩かみしめて歩を進めるような味のある堅実な音楽。

 歌手陣はそろっている。とりわけロッコを歌うアルフレート・ムフが素晴らしい。さすがというべきか、ゆとりのある落ち着いた美声。ドン・ピツァロのルチオ・ガッロも迫力ある声。マルツェリーネのサンドラ・トラットニッグ、ヤキーノのクリストフ・シュトレールもとてもいい。

 だが、肝心のレオノーレ役のメラニー・ディーナーがかなり不安定。第二幕では少し持ち直したように思えたが、第一幕では音程外れるし、声は出ていなかった。私はこの歌手をよく知らないのだが、不調だったのだろうか。フロレスタンのロベルト・サッカも好調とは言い難い。きれいな声だが、この歌手、よいときにはもっと素晴らしく伸びる声だったように思う。

 演出はカタリーナ・タールバッハ。「ブリキの太鼓」などに出演している女優さん(「ブリキの太鼓」の少女の役はよく憶えている!)で、舞台演出もしているという。そのせいかもしれないが、とても映画的。登場人物は20世紀後半の服装で、ドン・ピツァロは白いスーツに白いコートを着て、まるでシルヴェスタ・スタローンがマフィアの親分を演じた雰囲気。フロレスタンはやせこけ、ホームレスのように汚れている。細かな動きにも気を配って音楽にぴたりと合っている。とてもリアルだ。

 第二幕のフィナーレの前に例によってレオノーレ第3番が演奏されるが、これは驚異的な名演奏だった。これぞハイティンク。細部に至るまで音がコントロールされ、一つ一つの音に揺るぎがなく、まったく誇張することなく内面からのエネルギーにあふれている。

 

ヴェルディ 「リゴレット」2019年 ブレゲンツ音楽祭、ボーデン湖上舞台

 ブレゲンツ音楽祭の映像は何本かみたことがある。湖上に舞台を作ってのオペラであるため、しばしばオーケストラは雑になり、歌手たちはおそらくは寒さのために声が震え、ちょっと大味になるものが多かった。ところが、この「リゴレット」は一味違う。

 まず、フィリップ・シュテルツルによる演出に驚く。湖上に木製の大きな人間の顔と2本の手をした巨大模型が作られている。人力とコンピュータ制御によってそれらは動かされ、巨大な顔は道化師のふざけた顔になったり、悲しい顔になったり、女性の柔和な顔になったりといった具合に表情を変える。手も指が動いてまるで生きているよう。そうした中で、鮮やかな色彩の服装をしたまるでグロテスクな人形芝居のような登場人物たちが動き回る。渦海に飛び込んだり、ワイヤにつるされて宙に浮かんだり。フランスのギニョール劇のような趣がある。役者たちは大変だろうが、グロテスクでとてもおもしろい。しかも、このようにすると、リアルに演じると無理を感じるストーリーも違和感がなくなる。

 全員が小型マイクをつけての歌唱だが、野外オペラではやむを得ないだろう。リゴレットのウラディーミル・ストヤノフが凄味のある圧倒的な歌唱を聴かせる。声もしっかりしていてとてもいい。ジルダのメリッサ・プティも澄んだ声で素晴らしい。容姿もフランス人形のようで可愛らしい。マントヴァ公爵のスティーヴン・コステロは時々声が上ずるのを感じたが、全体的には美しい声で見事に歌う。外見上も十分にアポロのような公爵に見える。ほかの歌手たちもとてもいい。

 エンリケ・マッツォーラ指揮によるウィーン交響楽団については、最初は野外演奏であるがゆえの違和感を覚えたが、ドラマが高まっていくうちに気にならなくなった。少し大味ではあるが、野外上演としては最高レベルだと思った。

 

ドニゼッティ 「ルクレツィア・ボルジア」(比較校訂版)2019年 ドニゼッティ音楽祭

 すばらしい上演だと思う。歌手陣は最高レベルにそろっている。中でも、ルクレツィアを歌うカルメラ・レミージョがやはり圧倒的。声は美しく、声の演技も見事。息子への愛で揺れ動く残酷な女の心を歌い上げる。ジェンナーロ役のシャビエル・アンドゥアーガも伸びのある美声がとてもいい。二重唱は聞きごたえがある。そのほか、ズボン役のオルシーニを歌うヴァルドゥイ・アブラハミヤンもいい。アンドレア・ベルナールの演出によってジェンナーロと同性愛的な関係があるという設定になっている(と言っても女性が歌っているわけだが)が、アンドゥアーガとぴしりと歌う。そのほかの歌手たちもきわめて充実。

 舞台は簡素だが、そうであるだけに、人間の情愛がむき出しに表れる。ジェンナーロが毒を飲まされたことを知って母と知らずにルクレツィアを凌辱しようとする。ありがちな演出だと思うが、レミージョの演技によって真に迫っている。

 リッカルド・フリッツァの指揮するルイージ・ケルビーニ・ジョヴァニーレ管弦楽団も特に不満はない。きびきびした指揮。ドニゼッティのオペラの魅力を引き出していると思う。

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