エルサレム弦楽四重奏団 ベートーヴェン弦楽四重奏曲 4日日
2021年6月10日、サントリーホールブルーローズで、チェンバーミュージック・ガーデン、エルサレム弦楽四重奏団によるベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲演奏の4日目を聴いた。曲目は前半に第3番と第9番(ラズモフスキー第3番)、後半に第14番。素晴らしい演奏だった。
第3番は、美しいメロディにあふれている。ベートーヴェンの弦楽四重奏曲の中で、いやベートーヴェンの全作品の中でももっともメロディの美しい曲といえるのではないか。モーツァルトと違ってベートーヴェンはメロディを作るのがうまくなかったといわれるがとんでもない。なんと初々しくなんと生気にあふれたメロディであることか。それをエルサレム弦楽四重奏団は、本当に美しく演奏する。一つ一つの音が繊細で、しかもアンサンブルがこれまた美しい。端正で余計なものがなく、ふくよかに響く。実に生き生きとして躍動感にあふれている。
第9番も最高の演奏だった。第1楽章は曖昧な音楽に始まり、霧が晴れたように明快になって、生き生きとしてワクワクするような音楽が始まる。前期弦楽四重奏曲とは異なったダイナミックな躍動にあふれ、魂をゆすぶる。第2楽章のチャイコフスキーを思わせるようなロシア的な物憂げな情感も素晴らしい。第3楽章の気品にあふれてチャーミング。そして、第4楽章は大きく躍動する。感動の連続だった。
第14番も素晴らしかった。この曲は、躓いてしまうと、破綻が破綻を呼んで惨憺たる結果になる難曲だと思うが、驚くべき均衡を保ち、精妙に、そしてしなやかに音楽を進めていく。後期のベートーヴェンにありがちな剛腕さはない。峻厳さもない。穏やかで端正。荘重なフーガで始まるが、それがしなやかに展開され、明快で生き生きとした世界に広がっていく。生きる喜び。それがエルサレム弦楽四重奏団のベートーヴェン解釈のエッセンスだと思う。苦悩の後に訪れる研ぎ澄まされた生きる喜び。ベートーヴェンが最後に到達した境地。それを真正面から穏やかに、しかし生き生きと表現する。肩の力を抜いて、様々な制約も捨て、面倒なものは脱ぎ捨てて軽やかになって生命そのものを味わう。それがこの音楽だと思う。第5楽章以降、私は音楽に夢中になり、音楽とともに魂が動き、わくわくし、ベートーヴェンのとらえる生きる喜びに触れることができた。
今回のエルサレム弦楽四重奏団のベートーヴェン・チクルスはとても充実していると思う。毎回満足して来た。が、今回はとりわけ感動した。すべての曲が素晴らしかった。
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