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オペラ映像「ドン・カルロス」「ドン・カルロ」「ファルスタッフ」「ラ・ボエーム」

 数日前に、2回目のワクチンを接種した。374度の熱が出て、しばらくかなり強い疲労感を覚えた。私は日常的に倦怠感をかかえて生きている人間なのだが(「面倒くせえなあ」「やれやれだなあ」「しんどいなあ」「(大分弁でいうと)よだきいのう」といつも思っている)、今回の疲労感はその比ではなかった。が、2日半ほどたって、突然、それが消えた。これこそが副反応なのだろう。とはいえ、これで少し安心して外出できる。

 オペラ映像を数本みたので、簡単な感想を書く。

 

ヴェルディ 「ドン・カルロス」(フランス語5幕版) 1996年 シャトレ座

「ドン・カルロ」ではなく、カルロスとエリザベートの出会いの場のある第一幕を含むフランス語5幕版の「ドン・カルロス」。手持ちのこの上演のDVDの画質・音質があまり良くなかったので、BDを見つけて購入。残念ながら画質・音質ともにBDになったからと言ってあまり変わっていないような気がする。しかし、改めてこの上演を見て、やはり素晴らしい。「ドン・カルロ」「ドン・カルロス」の四幕版、五幕版すべての中で私の知る限り、これがベスト映像だ。

 まず、ドン・カルロスのロベルト・アラーニャが、この役にふさわしい。ちょっと弱々しく、しかもしっかりした美声で不遇の王子を歌い上げる。ロドリーグのトーマス・ハンプソンが堂々たる正義漢を歌う。二人の二重唱は本当に感動的だ。フィリップ2世のホセ・ファン・ダムも悪辣な王ではなく、愛されずに苦悩する王を見事に演じる。

 女性陣も魅力的だ。エリザベートを歌うカリタ・マッティラは気品があり、透明な色気がある。そして、エボリ公女を歌うのがヴァルトラウト・マイアー。私はワーグナーを歌うマイヤーばかり聴いてきたので、ヴェルディを歌うのを意外に思ったが、どうしてどうして。この役にふさわしい迫力。「私の美貌が憎い」というセリフが素直に納得できる。

 指揮はアントニオ・パッパーノ。パリ管弦楽団を躍動感で率いていく。リュック・ボンディの演出もわかりやすく美しい。全体的に最高度に満足できる映像だ。

 

ヴェルディ 「ドン・カルロ」(4幕 1884年イタリア語版)2016年 パルマ王立歌劇場

 悪い上演ではないが、1996年のシャトレ劇場の映像のあとだと、どうしても色褪せて見える。まず、オーケストラに大きな差がありそう。パッパーノの指揮するパリ管と比べて、ダニエル・オーレンの指揮するオーケストラはかなり色彩感に欠ける。

 歌手陣については、ドン・カルロのホセ・ブロス、ロドリーゴのウラディーミル・ストヤノフ、フィリッポ2世のミケーレ・ペルトゥージは健闘しているが、今一つの輝きが感じられない。エリザベッタのセレナ・ファルノッキアとエボリ公女のマリアンネ・コルネッティはともにその役にふさわしい個性を表現できていないと思う。演出はチェザーレ・リエヴィ。簡素な舞台で、特に新たな解釈はなかったようだ。

 

ヴェルディ 「ファルスタッフ」 2018年 ベルリン国立歌劇場

 ドイツの劇場でバレンボイムが指揮すると、ヴェルディのオペラがまるでドイツオペラのように聞こえる。深みがあり、渋みがある。ドイツオペラ好きの私からすると、これはとてもありがたい。

 演出はマリオ・マルトーネ。全員が現代の服装で現れる。ファルスタッフはジーンズに革ジャンスタイル。第1幕と第3幕は現代の場末の落書きだらけのパブ、第2幕のフォードの家はプール付きの金満家の庭。第4幕の森の場面は、仮装した秘密クラブめいた怪しい場所という設定。音楽との違和感はない。とてもおもしろい。

 歌手陣はオールスター。やはり、ミヒャエル・ヴォッレのファルスタッフが素晴らしい。ただ、あまり太っておらず、醜くもない。ノリのいいちょっと太り気味のおじさんといったところ。バルバラ・フリットリのアリーチェは本当に気品があってしとやかで、しかも色気があって実にすばらしい。ダニエラ・バルチェッローナのクイックリー夫人もさすがの歌唱。ナンネッタのナディーン・シエラの澄んだ美声はとても魅力的。アルフレッド・ダザのフォードもしっかりした声。全員が声楽的にも演技的にも文句なし。

 バレンボイムの指揮は抑制気味であまり派手に鳴らさない。しみじみと滑稽さをかみしめ、人生の悲哀を感じ、最後にそこから抜け出して、「すべては喜劇」と歌うような演奏になっている。

 バレンボイムが指揮者として活動し始めたころから、録音や実演で繰り返し聴いてきた。駆け出しの下手な指揮者だと思っていたら、とんでもない。大指揮者になり、今や円熟の指揮者になった。この人と同時代を生きたことをうれしく思う。

 

オペラ映画「ラ・ボエーム」2008年 ロバート・ドーンヘルム監督 (NHK放映)

 存在は知っていたが、プッチーニ好きではない私は、今回NHK放映で初めてこのオペラ映画を観た。

 とても良くできていると思う。プッチーニの時代のパリの雰囲気をうまく描いている。第二幕の街の様子はとてもリアル。舞台と異なって時間軸が自然で、室内と外の世界を自在に行き来できる。音楽の流れと映像がうまくマッチしている。

 やはりミミを歌うアンナ・ネトレプコが素晴らしい。容姿も含めて理想的なミミだと思う。ロドルフォのローランド・ビリャソンは声に関しては、絶好調なころのビリャソンであってすばらしいと思うが、この人の表情豊かな演技を映画というメディアで間近にすると、少なくとも日本人にはあまりに芝居じみて、鬱陶しく見える。ムゼッタはニコル・キャベル。当たり役だが、容姿的に私の考える小柄で可愛らしいムゼッタとは少し違う。そのほか、仲間たちのキャストと演技は理想的。ベルトラン・ド・ビリー指揮によるバイエルン放送交響楽団も文句なし。

 といいつつ、プッチーニのオペラを観るごとに思う。情緒たっぷりの歌が聞こえてくると私はなぜか居心地が悪くなる。難病もののお涙頂戴のメロドラマを見るときのような警戒感を覚える。そして、心から楽しめない。第二幕のさっぱりした部分だけ、素直に感動できる。

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