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オペラ映像 「エレクトラ」「フォルテュニオ」「復活」

 コロナ禍と酷暑の中の無観客オリンピックが開始されたようだ。ソフトボール、女子サッカーがテレビ中継されているのを少しみた。ともあれ、私としては音楽も楽しみ、テレビでオリンピックも楽しもうと思うが、新型コロナウイルスに関しての心配は尽きない。

 3本のオペラ映像を楽しんだので、簡単な感想を記す。

 

リヒャルト・シュトラウス 「エレクトラ」 2020年 ザルツブルク音楽祭(フェルゼンライトシューレ)

 2020年、コロナ禍の中で上演された「エレクトラ」。合唱も含まれず、上演時間も短いということで急遽このオペラが上演されたのだったと思う。

 私は演奏面においては素晴らしいと思う。歌手陣はそろっている。エレクトラのアウシュリネ・ストゥンディーテはきれいな済んだ声で芯の強さも持ち合わせている。容姿も含めてこの役にふさわしい。この歌手、初めて知ったが、これからが楽しみだ。クリソテミスはアスミク・グリゴリアン。サロメなどの役で声の美しさと同時に容姿の美しさで注目を集めた歌手だが、この役も実に素晴らしい。この二人の掛け合いは本当に見事。昔のような力任せの声ではなく、透明で繊細で、ちょっとリート的でさえある歌い方だ。ヴェルザー=メストの音楽づくりのせいなのだろうか。クリテムネストラのターニャ・アリアーネ・バウムガルトナーはかなり悪の強い歌い方で、それはそれでこの役らしくて良い。

 そのほか、オレストのデレク・ウェルトンは高貴でしなやかな、エギストのミヒャエル・ローレンツはいかにも小物っぽい歌と演技でとてもいい。

 それにしても、ヴェルザー=メストの指揮は端正でキレがよい。ロマン派の音楽というよりももっと後の時代の音楽を聴いているような怜悧さがある。音の紡ぎ具合がとても美しく、室内楽的な響きがする。しばしばこのオペラは分厚くて強烈な音が用いられるが、この指揮者の手にかかると、繊細で知的になる。ただ、そのためのすばらしさもあるが、このオペラの強烈な音響が薄れて、私としては少し不満を覚えないでもない。

 私がもっと不満を覚えるのはクリストフ・ワリコフスキの演出だ。現代を舞台にしているのはいいが、冒頭、長い長いクリテムネストラの自己弁護のセリフが加えられている。5分間くらいあるのではないか。オペラの前に、オリジナルにはないセリフを語ることに私は強い抵抗を感じる。もしかしたら、ホフマンスタールの原作にはこのセリフがあるのかもしれない(確認していない)が、オペラには含まれていない。

 また、エレクトラは心の病を抱えた人間であるかのように描かれるのも、私は納得できない。マネキン人形が舞台上に数体置かれているが、おそらくエレクトラの不安定な精神を表すものだろう。また、三人の主役格の女性が盛んにタバコを吸うが、これは三人が実は同類であることの象徴だろうか。それもあまりに撮ってつけたようで、私はセンスを感じない。

 最後、この演出では、クリソテミスがエギストを殺すことになっている。ことが成就した後、エレクトラは「踊ろう」と歌うが、この演出では、踊らない。踊ろうとして足が動かないということのようだ。エレクトラは親殺しを夢想し、憎み、呪い、不平を口にしただけで実行はできなかった。実行したのは現実と折り合いをつけて生きているクリソテミスのほうだった。現実と折り合いをつけながら生きているクリソテミスこそが現実を変革でき、現実を拒否して変化を拒むエレクトラは何もできない。それが演出家のメッセージなのだろうか。このような解釈が、変化を拒む人間と、現実を受け入れる人間との対比をしばしば描いてきたホフマンスタールのテーマにどうかかわるのか、私には納得ができない。

 ひとまとめに言うと、演奏面では大満足、演出に関しては、意欲的な演出であることは認めるが、疑問だらけだった。

 

メサジェ 「フォルテュニオ」 2019年 パリ、オペラ=コミック座

 メサジェの名前は知っていたが、この作曲家のオペラを観るのも聴くのも初めてだと思う。たまたま見つけて購入したが、とてもおもしろい。

 メサジェは1853年の生まれというから、フォーレとドビュッシーの間の世代の作曲家だ。とても感じのいいオペラだと思った。

 公証人アンドレの弟子になった田舎出の純朴な青年フォルテュニオは、アンドレの妻ジャクリーヌにひそかに思いを寄せるが、ジャクリーヌによって、愛人であるクレヴァロシュ隊長を隠すためのカムフラージュに使われる。だが、ジャクリーヌはフォルテュニオの純粋な愛に心打たれて愛するようになる。ブールヴァール劇と呼ばれるパリの他愛ないメロドラマの系列に含まれるようなオペラだ。

 フォルテュニオを歌うシリル・デュボワはこの気弱な青年をうまく演じ、美しい声で歌う。ジャクリーヌのアンヌ=カトリーヌ・ジレも揺れ動く人妻をきれいな声で歌い、クレヴァロシュ隊長のジャン=セバスティアン・ブーは女たらしの中年男をしっかりと歌う。間抜けな公証人アンドレを歌うフランク・ルゲリネルも見事。

 特にドラマティックなわけではないが、フランス語の流れが美しく、市井の人々の心理もわかりやすく、まるで1930年代のジャン・ルノワールやデュヴィヴィエやルネ・クレールらのフランス映画を見ているような気分になって楽しめる。

 ルイ・ラングレの指揮も輪郭が明確で、しかもしなやかでとてもいい。ドゥニ・ポダリデスの演出もわかりやすく、音楽とぴったり。好感が持てる。ともかく、とても楽しめた。

 

アルファーノ 「復活」 2020年 フィレンツェ、五月音楽祭劇場

 アルファーノは1875年生まれのイタリアの作曲家。プッチーニの「トゥーランドット」を補作完成させたことで名前の知られた人らしい。原作はトルストイの「復活」。中学生のころに原作は読んだ。当時の私にどのくらい理解できたかわからないが、ネフリュードフ公爵と自分を重ね合わせてとてもおもしろいと思ったのを覚えている。

 最後になって、トルストイらしいキリスト教的な復活のメッセージが現れるが、全体的にかなりメロドラマになっている。ネフリュードフの葛藤と決意という点に焦点は絞られず、カチューシャの苦しみと愛がテーマになっている。しかも、演出のせいもあるのかもしれないが、やはり全体的にシベリアの寒々とした雰囲気はない。一言で言って、イタリア式メロドラマの「復活」。

 演奏はとてもいい。カチューシャを歌うアン・ソフィー・デュプレルがまさに体当たりの歌と演技。公爵を慕う娘、妊娠して途方に暮れる女性、自暴自棄になった女囚、愛によって生きる希望を取り戻す女性を見事に演じている。ネフリュードフ公爵のマシュー・ヴィッカーズは貴族というよりも気のよい青年に見えてしまうが、しっかりと歌っている。

 指揮はフランチェスコ・ランジロッタ。演出はロゼッタ・クッキ。初めてみるオペラなので、解釈についてあれこれ言えない。とても良い演奏とわかりやすい演出だと思う。

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