ノット&東響のシベリウスに魂が震えた!
2021年7月18日、ミューザ川崎シンフォニーホールで東京交響楽団の定期演奏会を聴いた。指揮はジョナサン・ノット。曲目は前半に、チェロの伊藤文嗣、ヴィオラの青木篤子が加わってリヒャルト・シュトラウスの交響詩「ドン・キホーテ」、後半にシベリウスの交響曲第5番。とても良い演奏だった。
「ドン・キホーテ」については、しなやかで透明な音による絵巻物が繰り広げられた。しばしばこの曲の演奏で行われるようなゴージャスで厚みのある音響による音楽物語ではない。雄弁で色彩的だが、風通しがよく、一つ一つの音の積み重ねが目に見えるよう。二人のソリストもとても雄弁で清潔な鳴らし方をして、ノットの指揮にぴたりと合っていた。
私は高校生のころ(つまり、55年ほど前)、カラヤン指揮、フルニエのチェロ、ベルリン・フィルによるこの曲のレコードを繰り返し聴いていた。特に名曲とは思わなかったが、好きな曲ではあった。特に、ハチャメチャな行動をとった後の、晩年のドン・キホーテを描く楽想がとても感動的だと思っていた。
その点、今日聴いた演奏は、前半にしなやかで抑え気味に演奏しているために、前半と最後の部分の対比が鮮明ではなく、ちょっと物足りなく思った。とはいえ、やはりシュトラウスのオーケストレーションにほれぼれし、音の描写力に驚いて十分に堪能できた。
後半のシベリウスに関しては、私は大いに感動した。何度か魂が震えた。
シベリウスの交響曲を聴くのは久しぶりだった。中学生のころからなじんだ好きな作曲家の一人なのだが、そういえば、このごろ自宅の装置でもヴァイオリン協奏曲以外はめったに聴かなくなった。久しぶりに聴いてみると、すごい曲ではないか! 何度も何度も感動が押し寄せた。もちろん、ノットと東響の演奏のおかげだろう。
第一楽章、断片的な楽想が少しずつ少しずつまとまりを持ち始め、小さな渦が徐々に大きな渦になって、一つの大きな流れになってオーケストラ全体に広がっていく。その様子をノットは丁寧に美しく描いていく。まったくハッタリも誇張もなく、ただ丁寧に音楽を進めていく。だが、どういうわけか、それが生きた音になって流動する。音が重なっても濁ることなく、ドスンと魂に落ちかかってくる。私の肉体のリズムと音楽のリズムが合体していくような感覚を覚えた。こんなに自然でありながら、こんなに高揚するシベリウスを久しぶりに聴いた気がする。素晴らしい。心の底から満足した。
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