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「コンバット」DVD・BOX 驚くべき傑作ドラマ

 私は決してテレビっ子ではなかったが、中学、高校生のころ(つまり、1960年代)、多くの人と同じようにテレビドラマを楽しんでいた。そして、きっと私と同世代の人がそうであるように、日本のドラマよりもアメリカのドラマのほうに夢中になった。そのころ大好きだったのが、「コンバット」と「逃亡者」と「0011 ナポレオン・ソロ」だった。この3つの番組に関しては初回から最終回まですべてみていると思う。しかも、その後の再放送も何度かみた。

 このほど、テレビ放映されたスピルバーグ監督の「プライベート・ライアン」を久しぶりにみて、「コンバット」を思い出した。「コンバット」もこんなふうに戦争のむなしさ、極限状況の中の人間模様を描いていたっけと思った。無性に「コンバット」を見たくなった。アマゾンで調べて、シーズン1のDVDBOXを購入した。第1話から24話まで収録されている。昔懐かしい、田中信夫、納谷悟朗、羽佐間道夫、山田康雄の吹き替え。多くの回をロバート・アルトマンが監督している。

 きっとまだ戦争の記憶が生々しかったのだろう。ここに描かれているのは、多くが実際の兵隊たちの体験なのだと思う。当時、PTAから「戦争を美化している」といった批判が寄せられていた記憶があるが、とんでもない。まともな読解力を持っていれば、これを戦争美化などとは解釈のしようがないはずだ。

 戦争の不条理、理不尽な命令、死が日常となり、殺すことが習慣になってしまった人間の苦悩、いかんともしがたい二律背反。アメリカ兵の怒りと悲しみだけでなく、フランスのレジスタンスや一般庶民、ドイツ協力者、そしてドイツ軍兵士の運命や心情もリアルに描かれる。

 サンダース軍曹(ヴィック・モロー)は分隊を率いて、ノルマンディに上陸し、激烈な戦闘の中、パリに向かってフランス各地でドイツ軍と戦う。部下を殺されないような一人前の兵士に育てるが、時に失敗して部下を死なせたり、上官に八つ当たりしたり、自分がドイツ軍の捕虜になったりする。みんなが生き延びるためにその時々の選択をし、そのしっぺ返しを受け、のっぴきならない状況に追いやられながら、何とか自分らしい道を選ぶ。そのようなドラマにあふれている。人間ドラマとしても見事、サンダースの部下掌握法はリーダー論としても興味深い。驚くべき傑作ドラマだと改めて思う。

 ドイツ兵の銃はなかなかアメリカ兵にあたらず(少なくとも、レギュラー陣にはよほどのドラマの展開が用意されているときを除いてあたらない)、逆にサンダースの銃はかなりの精度で敵を倒す。また、サンダースやヘンリー少尉(リック・ジェイソン)ばかりが毎回毎回、劇的な目にあって、たとえ銃撃されても運よく致命傷にならない。そのような不自然さはないでもないが、そうしないと連続ドラマが成り立たないのだから、そこは大目に見よう。それにしてもフランスの戦場をリアルに再現し、兵士たちの動きを見事に描いている。

 今見ても、兵士の機敏な動きはまさに戦場で生死の中で必死に戦う兵士にしか見えない。戦場となって無残な状態になったフランスの田舎町はまさにフランスの田舎町だし、そこに生きる、おびえていたり、したたかだったりするフランス人はまさしく当時のフランス人。ドイツ兵もドイツ兵そのもの。実際のフランス戦線の映像も使われているだろうが、ヨーロッパ戦線はこうだっただろうと思わせるだけの力を持っている。

 たとえば、第11話「一人だけ帰った」。サンダースは、一緒に偵察に出た全員が殺され、その一人が命と引き換えに得た情報を伝えようと必死に本部に戻るが、上層部はその情報をほかの手段ですでに得ており、サンダースの情報を少しもありがたがらない。

 第16話「小さな義勇兵」。家族をドイツ軍に殺されたフランスの13歳の少年がアメリカ軍の義勇兵になろうとして、復讐に燃えてドイツ兵を撃ち殺すが、そのドイツ兵は少し前、少年に優しく接して、亡くなった自分の子どもの写真を見せながらチョコレートをくれた兵士だったことに気づく。

 そのようなエピソードが毎回、無駄のないセリフと緊迫感あふれる映像によって描かれる。もちろん、たまには私にもおもしろくない回はあるが、よくもまあこれだけの上質の人間ドラマを毎週放送していたものだと思う。しかも、これほど重いテーマの戦争ドラマが家庭のテレビに届けられていたことに驚きを覚える。それにしても、10数年前まで「鬼畜米英」と呼び、二度の原爆を落とした米兵の物語を日本人が喜んでみていたことにも驚く。戦争経験のある父と一緒にこのドラマを見ていた記憶があるが、父はいったいどのような気持ちでいたのだろう。

 日本で「コンバット」が話題になっていたころ、戦争を扱う日本映画も盛んにつくられていた。日本の戦争映画にはきまって上官への絶対服従や部下への暴力、外地の人々への暴力や略奪が描かれた。だが、「コンバット」にはそのような要素はない。復讐心に駆られてドイツ兵を私情で殺そうとする兵士も描かれるが、それを止める兵士も多い。ドイツ軍も、意外とジュネーブ協定を守ってアメリカ軍に対して紳士的に振る舞っているように描かれている。実際にはもっと悲惨だったと思われるが、日本映画で扱われる問題がそれほど大問題ではなかったのも事実だろう。

 作劇にも日本との大きな違いを感じる。当時の日本の戦争映画は、涙を誘うものが多かった。登場人物たちは軍隊内部でもつらい目にあい、残してきた家族を思い、戦友たちの無残な死を目の当たりにする。そこに主眼があった。可哀そうな人に感情移入をして、観客を泣かせようとする映画だった。だが、「コンバット」では情緒に流されず、もっと冷めた目で個人個人の悲劇を描く。敗者と勝者の違いもあるだろうが、日米の文化の違いも感じざるを得ない。

 まだ20話ほどしかみていないが、25話以降の収録されているシーズン2のBOXも購入した。もうしばらく見続けることにしよう。

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コメント

「コンバット」ってそういうテレビドラマだったんですね。私も見ていましたが、たぶん何も分かっていなかったんだろうと思います。今見たら少しは分かるかもしれませんが、樋口様のおっしゃるとおり、放映当時の戦争の記憶が生々しいときにこれを見た感覚は、もう分からないかもしれません。
私は「逃亡者」が好きでした。だいたい逃亡という状況設定が好きな性格らしいです。私のネクラな部分に触れるんだろうと思います。

投稿: Eno | 2021年8月26日 (木) 08時53分

Eno 様
私も、放送されていた当時は「逃亡者」のほうが好きだったかもしれません。「リチャード・キンブル。職業、医師。正しかるべき正義も時として盲いることがある・・」という矢島正明のナレーションを、つい数年前まで全文そらんじていました(今、口にしようとして、忘れてしまっていることに気づきました!)。
ただ、今みると、あのハラハラ感に耐えられる自信がありませんので、DVDの購入は我慢しています。
といいつつ、{コンバット」のDVDを購入したら、「逃亡者」の広告が盛んにPCに入ってきます。誘惑に負けてしまうかもしれません。

投稿: 樋口裕一 | 2021年8月26日 (木) 20時17分

誘惑に負けて「逃亡者」をご覧になったご感想を伺ってみたいと思ってしまいました。

投稿: Eno | 2021年8月27日 (金) 08時34分

Eno 様
コメント、ありがとうございます。ともあれ、飽きるまで「コンバット」を見て、それから「逃亡者」について考えたいと思っています。
ところで、ブログを拝見して、興味を惹かれ、「献灯使」を読んでみました。不思議な小説ですね。デストピアということもさることながら、濃密な文体に圧倒されました。言葉から成り立っている世界ということも強く感じました。文庫本に含まれている短編「韋駄天どこまでも」にも強く惹かれました。ありがとうございました。

投稿: 樋口裕一 | 2021年8月28日 (土) 22時30分

私も「韋駄天どこまでも」を読みました。「献灯使」を読んでこの作家に興味を惹かれたので、他にもいくつか読んでみました。たしかに「言葉から成り立っている世界」ですね。奇妙な後味の残る作品が多かったように思います。ブログの下書きをした作品もあったのですが、詰まらない感想なので、我ながらげんなりしました。

投稿: Eno | 2021年8月29日 (日) 08時43分

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