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オペラ映像「劇場の都合、不都合」「絹のはしご」「試金石」「なりゆき泥棒」

 大学の後期が始まった。私は、大学の選任職を定年退職した後、非常勤として後期だけの講義を受け持っている。いよいよ開始。昨年は対面授業とオンライン授業のハイブリッドだったが、今年は全面的に対面。週に一日だけの勤務だが、なんと、一日に90分、3コマ。しばらくは少々疲れを感じそう。

 それに先立ってオペラ映像を数本みたので、感想を書く。

 

ドニゼッティ 「劇場の都合、不都合」 2017年 リヨン国立歌劇場

 先日、安売りのDVDセットでスカラ座のこのオペラの上演の映像をみたのだったが、今回みたのは、新発売されたリヨンでの公演映像。これも同じくらいに楽しい。声楽的には図抜けているのは、ダリア役のチョーフィくらい。プロコーロのチャールズ・ライス、ルイジアのクララ・メローニ、グリエルモのエネア・スカラもとてもいいし、まったく不満はないが、ほれぼれするほどではない。

 アガタを歌うのはロラン・ナウリ。オペラの稽古場に乗り込んできてすべてをぶち壊してしまうモンスター・ステージ・マザーをナウリが歌いまくる。ナウリはもちろん芸達者な名歌手だが、それにしてもうまい。しばしば劇場は笑いに包まれる。

 作曲家役のピエトロ・ディ・ビアンコは歌も悪くないので、とてもいい歌手だと思っていたところ、チョーフィがロッシーニのオペラアリアを歌うのをピアノで見事に伴奏をする場面があった。いったいこの人、何者? (いつだったか、「地獄のオルフェウス」でオルフェウス役の歌手が実際にかなり難しいヴァイオリンのパートを弾いているのを映像でみて驚いたことがあったが、それを思い出した)。

 そして今回もまた、ロラン・ペリーの演出が圧倒的に素晴らしい。リズミカルでコミックでしゃれている。人物の動きそのものがとても音楽的。第一幕は駐車場でのけいこという設定。ドタバタの様子が伝わっておもしろい。指揮はロレンツォ・ヴィオッティ。生き生きとしていい演奏だと思う。とても満足。素晴らしいオペラというわけではないが、堅いことは言わず、舞台を楽しむにはとても良いオペラであり、とても良い上演だと思った。

 

ロッシーニ 「絹のはしご」2009年 ペーザロ音楽祭

 これまでみてきたロッシーニのオペラを、もう一度作曲年代順に見直している。続きを書く。

「絹のはしご」は、序曲だけは60年ほど前からなじんできた。ついでに言うと、50数年前、大分放送OBS(当時、大分市には、NHKのほかには、この民放局しかなかった)の夕方の短いニュースのスタートの音楽がこの序曲の最初の数小節だった。今考えても、とても良いセンスだと思う。当時の担当者に脱帽!

改めて全曲をみて、やはりとてもおもしろい。ロッシーニの脂ののった時期に差し掛かったことがよくわかる。

 ダミアーノ・ミキエレットの演出もクラウディオ・シモーネ指揮の演奏もとても現代的。現代の服を着た登場人物たちの現代的な色づかいの部屋でてきぱきとスピーディに物語が展開する。躍動的でスリリングでユーモラス。

 ジュリアを歌うオリガ・ペレチャトコが申し分ない。チャーミングな容姿と音程のいい美しい声。それに比べるとブランザックを歌うカルロ・レポーレは、声はきれいだが、役としては少々物足りない。ルチッラのアンナ・マラファーシもとてもいい。ドルモンのダニエレ・ザンファルディーノとジェルマーノのパオロ・ボルドーニャは悪くないが、さほど魅力敵というわけではない。

 

ロッシーニ 「試金石」2007年 マドリッド王立劇場

 自分への愛情を試すために芝居を打って、ともあれうまくことが収まる物語。だから「試金石」というタイトル。本筋と関係のない登場人物が大勢出て、たくさんの歌が披露されるのは後の「ランスへの旅」を思わせる。リアリズムからするとあり得ない設定がたくさんあるが、これはこれでとても楽しい。ロッシーニの本領発揮の時代に入ってきたことがよくわかる。

 ピエール・ルイージ・ピッツィによる演出は、舞台を現代に置き換えて、プール付きのおしゃれで色鮮やかな豪邸を描き出している。第一幕では水着姿で歌う。歌手陣に突出した人はいないが、全員、容姿も含めてその役にふさわしい。アスドルバーレ伯爵役のマルコ・ヴィンコも、クラリーチェのマリー=アンジュ・トドロヴィッチも、十分にしっかりした声で歌っている。指揮のアルベルト・ゼッダも言うことなし。歌手陣全員がなかなかの美形で体形もとても魅力的なので、見た目にも楽しい。

 

ロッシーニ 「なりゆき泥棒」 1992年 シュヴェツィンゲン音楽祭

 90分ほどのオペラ・ブッファ。有名なオペラではないし、録音も少なく、入手できる映像は一つしかないが、とても楽しい。カバンを間違えられたのをきっかけに、その中にあった紹介状を使って他人に成りすましてうまく結婚しようとして、最後はめでたしめでたし。8作目となると、もう完全にロッシーニの世界。

 1992年の録画なだけにさすがに画質も音質もよくなく、演奏様式も今と異なる。ミヒャエル・ハンペの演出。貴族らしい服を着て、まさに昔ながらの上演。92年の録画だけに、画像ももちろん、演奏様式も少し現在のロッシーニ演奏と異なるように思う。指揮はジャン・ルイージ・ジェルメッティで、とてもいいのだが、最近のロッシーニほどの躍動感はない。歌手もとびぬけて感動的な人はいないが、全体的にそろっている。

 

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