鈴木雅明指揮、優人オルガン、読響によるプーランクの協奏曲に感動
2021年9月18日、東京芸術劇場で読売日本交響楽団演奏会を聴いた。指揮は鈴木雅明。曲目は前半にカール・フィリップ・エマニュエル・バッハのシンフォニア ニ長調と、鈴木優人が加わって、プーランクのオルガン協奏曲、後半にメンデルスゾーンの交響曲第4番「イタリア」。
バロック音楽に疎い私がこのシンフォニアを聴くのは、たぶん初めてだったと思う。とても新鮮に響いて素晴らしい。すべての楽器が美しく響き、勢いがあり、豊かさがある。ヴィブラートを減らした古楽的なアプローチだが、それが実に美しい。直截的でまっすぐに私の心の音が響いてくる。これまでC.P.E.バッハの曲はほとんど聴かなかったが、こんなに魅力的な作曲家だったのか!と思った。
次のオルガン協奏曲には心から感動した。かなり前、ヒコックス指揮のこの曲のCDを聴いて、プーランクという作曲家の奥の深さに驚き、それ以来、プーランクに関心を持ってきたのだった。宗教的な厳粛さと真摯さにあふれ、時に劇的な激しい響きが心を引き裂く。そして、しばしばしなやかで柔和で現代的な表情が現れる。そのような精神を今日の演奏は真正面から描き出してくれた。
これはオルガンとオーケストラによる協奏曲というよりも、オルガンがオーケストラを従者としてよりいっそうオルガンの威力を拡大したような曲だと思う。ホール全体が教会の中のようになるが、しかし、それはかつての厳かな教会ではなく、ジーパン姿の若者も交じっているような現代人の持つ宗教世界といえそうだ。そうした精神を鈴木優人だからこそ出せたのではないか。私はしばしば感動に震えた。同時に、改めてプーランクという作曲家の魅力を認識した。
オルガンのアンコール曲として、フォーレのエレジーのオルガン・ヴァージョン。プーランクにしてはあまりに真摯な曲から少し解放されてゆっくりと人生の悲しみを味わうにはとても良い曲だった。それにしても、天才親子というのは何ともうらやましい。
「イタリア」も素晴らしかった。メンデルスゾーンの気高い品性を持った生き生きとした感情を見事に音にしてくれた。生命が息づいており、すべての音に勢いがある。古典的なたたずまいだが、間違いなくロマンティックな精神がほとばしっている。読響の音の美しさも再認識。迷いのない明確で美しい音。第一楽章も素晴らしかったが、最終楽章のリズムの高まりも感動的だった。実に満足だった。
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コメント
樋口先生
私も昨日の読響マチネに行きました。
すばらしかったですね!
実は私は、オケ定期ではめったに聴けないCPEバッハの「シンフォニアニ長調」を、ほんの3日ほど前9/15にサントリーホール鈴木秀美指揮N響定期(こちらはバロックの巨匠コープマン来日不可による代演)で、聴いたばかりだったのです。
N響は読響に比べると少しもったりとしたテンポでもっとノンビブラートに近く、私は読響のほうが聴いていて気持ちがよかったのですがバロックは楽器や音程にも疎くなにが正解かはわかりません。
いずれにしてもどちらも定期プロで予定していた海外指揮者の来日不可による代演だったので偶然兄弟で同じ週にN響・読響で同じ曲になった、ということでしょう!
下世話な興味でマエストロはお互い聴きに来てるかな?と15列目あたりをキョロキョロしたのですがお見掛けしませんでした笑。今週はスズキウィークでした。
プーランクはBCJ以外での珍しい親子共演となりましたが、芸劇のモダン側オルガンを使った演奏は本当に感動しました。
アンコールの「夢のあとに」もまさかの選曲でしたがフランスつながりやホールにいる全員の置かれた不安な状況を慰めるような優人さんの人柄とセンス、そしてあの若さで昨年の演奏会自粛明けにクリエイティブパートナーとして来日指揮者のないなか読響をしっかり守って信頼を築きあげてきたことも思い出され、心から感動し涙しました。
ちなみに読響マチネの元のプログラムはこちらでした。
フィガロの「離婚」も聴きたかった!
指揮=マクシム・エメリャニチェフ
オルガン=鈴木優人
エレーナ・ランガー:歌劇「フィガロの離婚」組曲(日本初演)
プーランク:オルガン協奏曲 ト短調
メンデルスゾーン:交響曲第4番 イ長調「イタリア」
投稿: Tamaki | 2021年9月19日 (日) 09時32分
Tamaki 様
コメント、ありがとうございます。
あ、「夢のあとに」でしたっけ。失礼しました。フランス音楽が苦手なことがばれてしまいましたね。フォーレだとはわかったのですが。
それにしても素晴らしい演奏でした。このところの鈴木一家の活躍ぶりには舌を巻くばかりです。さっそく、昨日、鈴木一家のコンサートを探してチケットを購入したのでした。
投稿: 樋口裕一 | 2021年9月19日 (日) 09時39分