中村・辻本・佐藤のトリオ 個性の異なる三人が息を合わせた音楽
2021年9月21日、紀尾井ホールで「中村太地 × 辻本玲 × 佐藤卓史 PIANO TRIO」を聴いた。曲目は、前半にヘンデル(ハルヴォルセン編)の「パッサカリア」、ブラームスのピアノ三重奏曲 第1番、後半にシューベルトのピアノ三重奏曲 第1番。
「パッサカリア」は、ヘンデルの原曲をヴァイオリンとチェロによるかなり自由な変奏を加えた曲。中村、辻本の技巧に圧倒された。中村のきりりと引き締まった美音に惹かれる。辻本ののびのびとした音とある意味で対照的と言っていいだろう。そこがおもしろかった。
ブラームスのピアノ三重奏曲第1番については、第1楽章は私はちょっと持たれ気味になった。チェロが少し目立ちすぎている気がした。チェロのほうが音が大きく、しかも辻本の音は豊かで深みがあるので、どうしても細い線できりりと演奏する中村のヴァイオリンはかき消され気味になる。そうなると、ブラームスの緊密な構築が揺らぐ気がした。だが、第2楽章以降は、あまり気にならなくなった。徐々に緊密さが増し、若きブラームスの抑制された熱情のほとばしりが聞こえるようになってきた。最終楽章はさすがの盛り上がり。
シューベルトのトリオはとてもよかった。これがシューベルトなのだと思う。音楽そのものを楽しみ、慈しみ、生き生きと幸福感いっぱいに音楽を進めていく。躍動的でメリハリのある佐藤のピアノ、豊かで愉悦に満ちたチェロ、そこに音程のいい美音がぴしりと決まる。個性の異なる三人が息を合わせて音楽を楽しむ。
アンコールはピアソラの「ブエノスアイレスの秋」(中村さんがそのようにマイクを通して語ったように思えた)。これもまさに音楽の愉悦。これも息がぴったり合って素晴らしい。
これまで辻本さん、佐藤さんの名演奏は何度か聴いていた。中村太地さんのヴァイオリンを聴いたのはこれが初めてだった。が、素晴らしいヴァイオリニストだと思った。端正で、音程がよく、音に気品があふれている。これからもトリオを続けてもらえるとこんなうれしいことはない。
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