ハイティンクのこと、そして「コンバット」のこと再び
ベルナルト・ハイティンクの訃報をみた。グルベローヴァに次いで、また親しんできた名演奏家が亡くなった。
私にとってハイティンクは大好きな指揮者というわけではなかったが、コンセルトヘボウ管弦楽団、ウィーン・フィル、ロンドン交響楽団、シュターツカペレ・ドレスデン、ロイヤル・オペラ・ハウス来日公演でモーツァルト、ベートーヴェン、ブルックナーを聴いて、そのたびに深く感動した記憶がある。じっくりと音楽の本質を聴かせてくれる演奏だった。若いころの録音は「特徴がない・生ぬるい」などと批評されることが多く、ヨーロッパでの名声のわりに日本では人気がなかったように思う。そして、実際、私も録音を聴いて、そのような印象を抱いた。だが、実演を聴くと、そのような低い評価を忘れてしまうだけの説得力があった。本当に素晴らしい指揮者だなあと何度も思った。合掌。
先日、昔のアメリカのテレビ・ドラマ「コンバット」のDVDを購入して観始めたことをここに報告した。結局、シーズン1・2と6の合計73話をみた。全152話の中の半分弱ということになる。とてもおもしろかったが、さすがにちょっと飽きてきて、シーズン3・4・5はとばした。
シーズン6からカラー放送になっているが、さすがにネタ切れになったようで、だんだんと設定が不自然になっていく。囚人兵を組織してならず者部隊にしたり、敵味方が入り乱れて洞窟に閉じ込められたり、敵の戦死者を味方の生きた兵士に見せかけて敵の攻撃をかわしたりといった、ちょっとふつうではありえないエピソードが続くようになった。それはそれで面白いし、ドラマとしてとてもよくできているのだが、初期のリアルな戦争の状況を描いていたのとは様変わりしている。
それにしても、登場人物のキャラクター設定がおもしろい。ヴィック・モロー演じるサンダース軍曹は身のこなしも機敏、人間の心を知ったうえで、厳しく戦争の現実と向き合い的確に戦闘を進めていく。リュック・ジェイソン演じるヘンリー少尉は身のこなしこそサンダース軍曹に劣るが、知的な雰囲気はなかなか魅力的。6、7割はサンダース軍曹が主役、時にヘンリー少尉が主役だったが、中学生の私は、その回の主役がサンダース軍曹ではなくヘンリー少尉だとちょっとがっかりしたものだ。それから50年以上経った今も、やはり同じように私はヘンリー少尉よりもサンダース軍曹が登場する回を好む。
ほかのレギュラー陣も実に人間的。このようなキャラクターであるからこそ、戦争ドラマが無理なく続いたのだと思う。カービーはきわめて優秀な兵士であり、他人思いで心優しいが、喧嘩っぱやくて、女にだらしがなくて、差別意識を強くて常に問題を起こす。ケーリー(アメリカ版ではケージという名前になっている)はフランス系のカナダ人で、フランス語通訳を務め、しっかりと自分の仕事をやり遂げる、いわば職人。リトルジョンは少し動作がのろく、あまり知的とは言えないが、しっかりした倫理観と常識を持っている。カーター衛生兵は、銃撃にはかかわれない中、衛生兵として人の命を何よりも大事にして、仕事を全うしようとする。そんな兵士たちの織り成すドラマは戦場という究極の場での人間ドラマになる。
当時の映画スターたちやその後スターになる人たちが大勢出演しているのにも驚いた。以前、再放送などでみて、ジェームス・コバーン、リカルド・モンタルバン、ロバート・デュヴァル、デニス・ホッパーが出演していたのは認識していたが、エディ・アルバートとアリダ・ヴァリが(内縁の?)夫婦役で出たときには本当に驚いた。ただ、私のようなヨーロッパ映画ファンにとって、アリダ・ヴァリと言えば、オードリー・ヘップバーン級の大スターなのだが、あまり扱いが大きくないのが残念。
しばらく休んで、また「コンバット」をみたくなり、そのころ、まだDVDが販売されていたら(できれば、それほど高くない金額で!)、その時、残りのシーズン3・4・5をみることにしよう。
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