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オペラ映像「ブルスキーノ氏」「タンクレディ」「チェネレントラ」

 ロッシーニのオペラを時代順にみなおしている。感想を書く。

 

ロッシーニ「ブルスキーノ氏」2012年 ペーザロ、ロッシーニ・オペラ・フェスティヴァル (アッリーゴ・ガッザニーガによる批判校訂版)

 9作目ともなると、もはやロッシーニは押しも押されもしない人気オペラ作曲家なのだろう。もし、このあたりでロッシーニが作曲をやめても、十分に歴史に残ったかもしれない。台本もよくできているし、音楽も楽しい。歌いたくなるアリアもたくさんある。

 この上演の演出は、ロッシーニランドとでもいうべきテーマパークに見立てた舞台を作り出している。見物客が次々と訪れ、その中でオペラが繰り広げられる。テアトロ・ソテッラネオの演出だということだが、とても気が利いている。こうすることでオペラの古めかしい設定をうまくかわしている。

 歌手はそろっている。特に二人の中年男役(ブルスキーノ父のロベルト・デ・カンディアとガウンデンツィオのカルロ・レポーレ)が愉快で、歌のテクニックも見事。ソフィーアのマリア・アレイダは素晴らしく美しい声。もう少し躍動感と声量があったら申し分ないのだが、ないものねだりになってしまうだろう。フロルヴィッレのデイヴィッド・アレグレットも美しい声と余裕のある演技がおもしろい。ダニエーレ・ルスティオーニの指揮も、しなやかさの中に躍動感があって、とてもいい。

 

「タンクレディ」 2005年 フィレンツェ五月祭、テアトロ・コムナーレ

 これまで実演を含めて何回かこのオペラをみたことになるが、どうも私は「タンクレディ」があまり好きではない。ストーリーについていけない。ヴェルディの「オテロ」と同じように、薄弱な情報をうのみにして他者を誤解して悲劇に陥る主人公に同情できない。タンクレディに向かって、「おいおい、一方的な情報をうのみにしないで、もっとちゃんと確かめろよ!」と言いたくなるし、アメナイーデにも「誤解されて困ってるんだったら、いくらでも機会があるんだから、さっさと、『それは誤解です』と言えよ!」と思ってしまう。そう思うといらいらして、オペラを楽しめなくなる。情報を確かめないでうのみにする愚か者たちの自業自得の物語に思える。一方的な誤解の話だったら、悲劇にしないで喜劇にしてほしいとつくづく思う。

 タンクレディ役のダニエラ・バルチェッローナ、アメナイーデ役のダリナ・タコヴァともになかなかいいのだが、爆発的ではない。リッカルド・フリッツァの指揮、ピエール・ルイージ・ピッツィの演出もとてもいいが、これも圧倒的ではない。

 

ロッシーニ 「チェネレントラ」 2016年 ローマ歌劇場

 新国立劇場の新制作の「チェネレントラ」をみて、手元にある「チェネレントラ」の映像も観たくなった。時代順の順番をちょっと入れ替えて、これを先に観た。

新国立の上演に比べて、ずっとテンポが速く、指揮のメリハリがある。ただ、新国立劇場での今回の城谷の指揮に比べて、少々雑さを感じないでもない。そんなわけで、素晴らしい名演というほどでもなく、よくまとまった上演にとどまっていると思う。

 アンジェリーナを歌うセレーナ・マルフィとドン・ラミーロのフアン・フランシスコ・ガテルはともに、もちろんとてもいいのだが、圧倒的というわけではない。マルフィは活力あるボーイッシュな雰囲気、ガテルは逆に陰のある感じ。演出でそのようにしているのだろうか。ドン・マニーフィコを歌うのは、今回の新国立劇場と同じアレッサンドロ・コルベッリだが、映像のほうがずっといい。1952年生まれというから私よりも1歳年下なので、言いたくはないが、きっと年齢による声の衰えがあるのかもしれない。

 ヴィート・プリアンテのダンディーニ、ウーゴ・グァリアルドのアリドーロも歌手陣はみんなかなりのレベルだが、突き抜けてはいない。

 演出はエンマ・ダンテ。アンジェリーナのもとにいるネズミたちやドン・ラミーロの召使たちにネジがついている。ネジは、主人に従順であることの象徴のようで、ドン・マニーフィコらがアンジェリーナに従うときに、ネジを付けられる。

 

・ロッシーニ 「チェネレントラ」 バルセロナ、リセウ大劇場 パトリック・サマーズ(指揮)

 もう1本、気に入っている映像をみることにした。これは凄い。

 何しろドン・ラミーロを歌うのはフアン・ディエゴ・フローレス、アンジェリーナはジョイス・ディドナート。この二人は圧倒的。最後のアンジェリーナのアリアなど、呆然とするほど素晴らしい。ドン・マニーフィコのブルーノ・デ・シモーネ、アリドーロのシモン・オルフィラも大喝采したくなる。

 ジョアン・フォントの演出も絵本の世界を再現して楽しい。パトリック・サマーズの指揮もメリハリがあり、勢いがあってとてもいい。

 心の底から満足。ロッシーニの世界を堪能できる。見終わった後、しばらく幸せな気持ちに浸ることができる。このオペラが「セヴィリアの理髪師」に匹敵する傑作だということがよくわかる。

 もう1本、ヒューストン歌劇場のブルーノ・カンパネッラの指揮、チェチーリア・バルトーリがアンジェリーナを歌った映像をみたくなったが、これは後回しにしよう。

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コメント

樋口先生、ブログ更新ありがとうございます。先の新国立劇場チェネレントラに続いてのコメント投稿です。私も公演後に映像を見ましたが、まさにリセウとヒューストンの2本でした。ディトナートのロンドフィナーレ素晴らしかったですね。変幻自在ともいうべき超絶技法を随所に織り交ぜた圧倒的な歌唱。僕の求めている「ロッシーニ」を堪能できました。

投稿: BRIO | 2021年10月17日 (日) 18時31分

BRIO 様
コメント、ありがとうございます。
バルトーリとディドナート。この二人のアンジェリーナは最高ですね! 脇園さんも素晴らしかったのですが、やはりこの二人の域にはまだ達していないと思いました。

投稿: 樋口裕一 | 2021年10月18日 (月) 22時47分

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