尾高&N響の第九 オーソドックスな理想の第九
2021年12月25日、東京芸術劇場でNHK交響楽団第九演奏会を聴いた。
指揮は当初ファビオ・ルイージが予定されていたが、新型コロナウイルス感染防止策としての外国人入国停止措置のために尾高忠明に変更。独唱も日本人勢に変更になって、森麻季(ソプラノ)、加納悦子(メゾ・ソプラノ)、櫻田亮(テノール)、三原剛(バリトン)。合唱は東京オペラシンガーズ。
尾高忠明の第九はこれまで何度か聴いたことがあるので、ルイージの指揮が聴けないのを残念に思って出かけたのだったが、素晴らしい演奏だった。
これぞ私が理想としている第九だと思った。
きわめてオーソドックスな演奏だと思う。驚かせるような音は一切出てこない。テンポもいじらないし、何かの楽器を特に強調することもない。これまで多くの指揮者が盛り上げようとしたところを盛り上げるし、多くの指揮者がテンポを速めたところで速める。私がこれまで聴いてきた500種類くらいの録音や実演や放送の第九(私は第九のCDを300枚以上所有している!)のすべてを平均したような展開。だから、ここに取り立てて語るべき言葉も見つからない。だが、それが素晴らしい。
すべての音が最も適切に、そしてあるべき勢いをもって響き渡る。NHK交響楽団の音も実に美しい。オーボエもフルートもホルン(ただ、出だしでちょっと躓いた感があった)も本当にきれいな音を出す。弦楽器もみごと。特に私はヴィオラの音にしばしばうっとりした。すべての音が自然に重なって、ベートーヴェンの精神が目の前に現れる。これこそが指揮者が主観でゆがめることのない本当のベートーヴェンだと私は思った。
第1楽章は人間の存在としての苦悩を抉り出すような音楽、第2楽章は壮大なる心の躍動、そして第3楽章は高い境地への上昇。私は特に第3楽章に感動した。なんという静かで穏やかで純粋なる境地であることか。上昇し上昇して、雲が晴れて新たな世界が見えてくる。そして、祝祭の第4楽章がそれに続く。
独唱陣もよかった。当初予定されていた外国人勢にまったく劣らないと思う。私は特に、森麻季と櫻田亮の声に惹かれた。森さんはこれまで何度か聴いて、その美声はよく知っていたが、櫻田さんはほとんど初めて聴く。この難しいパートを格調高く歌って素晴らしいと思った。
何度も感動に震えた。ああなんという名曲だ、ああなんと音楽は素晴らしいんだと、今日もまた改めて思った。
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