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オペラ映像「シャモニーのリンダ」「アイーダ」「シモン・ボッカネグラ」「愛のあるところ嫉妬あり」

 2021年大晦日。この1年、家族の健康面でひやひやの連続だったが、大事なく終えることができそうで、大変めでたい。オペラ映像を数本みたので、感想を記す。

 

ドニゼッティ 「シャモニーのリンダ」 2020115日 フィレンツェ五月音楽祭

 コロナ禍の中の上演なので、おそらく無観客だったのだろう。合唱団は全員がずっとマスクをつけている。そのせいもあるのだろう。やはり、全体の印象が弱い。「シャモニーのリンダ」と言えば、どうしてもグルベローヴァが歌ったチューリヒ歌劇場の映像を思い出すが、グルベローヴァのものが鮮やかな色彩で描かれた油絵だとすると、今回のほうは水彩画のような印象とでもいうか。

 もちろん悪くはない。リンダのジェシカ・プラットはとてもきれいな声。容姿的にも、かなりふくよかではあるが十分に魅力的。カルロのフランチェスコ・デムーロは、ちょっと声の濁る部分はあるが、高音は素晴らしい。ボアフレリー公爵のファビオ・カピタヌッチもなかなかにかわいげのある悪役をうまく歌っている。私としては、司教のミケーレ・ペルトゥージの声が出ていないのを除けば特に不満はない。だが、それでも、グルベローヴァが歌う映像をみたときのようなパンチを感じない。

 ミケーレ・ガンバの指揮も少々緊密度が弱い気がする。これも、もしかするとコロナのための練習不足が原因かもしれない。演出はチェーザレ・リエーヴィ。きれいでわかりやすい演出なので、私としては十分に楽しめる。

 ただ、やはりストーリー的には、都合よくリンダが狂気になったり正気に戻ったりして、リアリティを感じない。やはりこのオペラは、グルベローヴァのような圧倒的な存在がいてこそ強い感銘を与えることができるのだと改めて痛感する。

 

ヴェルディ 「アイーダ」 2015年 ミラノ、スカラ座

 アイーダを歌うクリスティン・ルイスがとても魅力的。高音が透明で美しく、柔らかみのあるしっとりした声。多くの人物が顔を褐色に塗っているので、よくわからないが、きっとこの人はアフリカ系だろうと思う。次々と素晴らしいアフリカ系の歌手が出てくる。実に頼もしい。ラダメスのファビオ・サルトーリも強い美声。見かけはあまり英雄らしくないが、ともあれ声は素晴らしい。アムネリスはアニタ・ラチヴェリシュヴィリ。敵役を歌わせると、この人に勝る歌手はいない。そして、なんとラムフィスを歌うのは、マッティ・サルミネン。かつての圧倒的な声は失われたが、存在感はさすが。そして、アモナズロのゲオルグ・ガグニーゼもしっかりした歌。

 指揮はズービン・メータ。実は第12幕では、私はちょっと締まりがなくて、バランスが崩れているのではないかと思った。が、後半はぐいぐいとドラマを盛り上げていく。さすがの力量だと思う。演出はペーター・シュタイン。美しくてきわめて穏当。

 

ヴェルディ 「シモン・ボッカネグラ」 2007年 ボローニャ、テアトロ・コムナーレ

「シモン・ボッカネグラ」は好きなオペラなのだが、この映像は初めてみた。素晴らしいと思った。もっと前に観ておきたかった。

 ミケーレ・マリオッティの指揮がドラマティックで力がみなぎっていてとても良い。ただ、私はこのオペラに復讐と野望と怒りと憎しみと欲望の入り混じった低音の男たちのおどろおどろしいドラマを求めているのだが、その点では少し物足りない。清らかな愛やら純粋な気持ちなどの表現のほうを強調しているのを感じる。とはいえ、これはこれで見事。

 シモンを歌うロベルト・フロンターリがとてもいい。外見的にも善人に見えないのが素晴らしい。やはりシモンはこうでなくちゃ。フィエスコのジャコモ・プレスティアも高貴でありながらも心の憎しみをもつ老人を見事に演じている。悪漢パオロを歌うマルコ・ヴラトーニャも憎々しげで声もしっかりしている。

 ガブリエーレを歌うジュゼッペ・ジパーリが素晴らしい美声。ほれぼれする。アメーリアのカルメン・ジャンナッタージオも清純な澄んだ声。ちょっと声の硬さを感じるが、この役はこれでよいだろう。この二人の純愛の歌が今回の上演では大きな説得力を生んでいる。

 演出はジョルジョ・ガッリオーネ。特に際立った新しい解釈はないが、シモンの苦しみが伝わり、音楽に寄り添った巧みな演出だと思う。ご都合主義的なストーリーを不自然に感じさせないのも演出のおかげだろう。

 

ジュゼッペ・スカルラッティ 「愛のあるところ嫉妬あり」2011年 チェスキー・クルムロフ城バロック劇場(チェコ)

 スカルラッティのオペラだというので、ドメニコ・スカルラッティだとばかり思って注文。商品を開いてジュゼッペだと知った。バロック音楽に詳しいわけではない私は、アレッサンドロは知っていたが、ジュゼッペ・スカルラッティという作曲家がいることを初めて知った。どうやら、アレッサンドロの孫、ドメニコの甥らしい。

 この劇場では、バロック時代そのままのオペラを上演しているようだ。劇場そのものがバロック時代のもので、裏方も映像に映し出されるが、当時の扮装で力仕事をしている。指揮者もオーケストラ団員も当時の扮装。オーケストラボックスはあるが、指揮者は舞台に向かって指揮をするのではなく、左側(つまり上手)の隅にいて、舞台と直角の角度で指揮をする。

 オペラはとてもおもしろかった。愛し合いながらも嫉妬しあう貴族の男女と召使の男女。愉快で美しい音楽が続く。90分ほどの短いオペラ・ブッファで、退屈しない。

 歌手陣もきわめて充実。素晴らしい。とりわけ、侯爵夫人を歌うレンカ・マチコヴァが素晴らしい歌を聴かせてくれる。潤いのある声だが、芯が強く、この役にふさわしい。ヴェスペッタのカテジーナ・クニェジーコヴァもとても美しい声で小間使いを歌う。二人とも容姿も申し分ない。伯爵のアレシュ・ブリスツェインは低音が苦しくて不安定だが、頼りない伯爵の役なのでさほど気にならない。パトリツィオのヤロスラフ・ブジェジナはフィガロ風の機転の利く従者を見事に歌う。しかもこの四人、芝居がめっぽううまい。演出のオンドジェイ・ハヴェルカがよいのだろうが、軽妙で、しかも十分にリアルで、バロック時代そのものの世界を描きながらまったく古さを感じさせない。ヴォイチェフ・スプルニーの指揮する シュヴァルツェンベルク宮廷管弦楽団も時代色を出して素晴らしい。

 バロック・オペラはなかなかいいんだけど、長くて、聴いているうちに退屈してくるからなあ・・・と敬遠していたのだったが、これはそんなことはなかった。存分に楽しめた。

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