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オペラ映像「なりゆき泥棒」「魔笛」「ヘンゼルとグレーテル」「ホフマン物語」

 オミクロン株が再び蔓延して、またまた悪夢の再現になるのではないかという不安があるが、ともあれ平穏に2021年最後の週になった。何本かオペラ映像をみたので感想を記す。

 

ロッシーニ 「なりゆき泥棒」 20177月 バート・ヴィルトバート、王立クア劇場

 発売されたばかりのBDだが、しばらく前に観た「ひどい誤解」の1年前に同じヴィルトバート・ロッシーニ音楽祭で上演されたもの。「ひどい誤解」もとてもよかったが、これもとてもいい。

 まずオペラの音楽そのものが本当に楽しい。ストーリーはちょっと無理があるが、音楽は最初から最後までこの上なく充実している。くわしくは調べていないが、ほかのオペラで聞き覚えのあるメロディがいくつも出てくるような気がする。きっとロッシーニは、このオペラの後にほかの作品に次々と転用したのだろう。

 歌手陣は高いレベルでそろっているが、とりわけベレニーチェを歌うヴェラ・タレルコが素晴らしい。声、テクニック、容姿、演技ともにとても魅力的だと思う。勝気なこの役にぴったり。若手の多い中で、ドン・パルメニオーネを歌うロレンツォ・レガッツォだけがかなりのベテランだが、声と演技はさすがというべきか、芸達者なところを見せる。アルベルトのケネス・ターヴァーはおそらくアフリカ系の歌手だと思うが、この役にふさわしい高貴な美声。エルネスティーナのジャーダ・フラスコーニも、チャーミング。パトリック・カボンゴはアフリカ系の若い歌手なので、ドン・エウゼビオを歌うには少し違和感があるが、しっかりと役をこなしている。

 演出、舞台美術はヨッヘン・シェーンレーバー。オリジナルでは、ドン・パルメニオーネが間違えてアルベルトのカバンを自分に者と思って開けてしまい、中に女性の肖像画を発見したことから、アルベルトに成りすまして結婚をしようという気になるという設定のはずだが、この演出では、ドン・パルメニオーネはいくつもの国をまたにかける悪漢ということになっている(複数のパスポートを持ち、ピストルをカバンに忍ばせている!)。カバンを故意に取り違え、悪辣な意図をもってアルベルトに成りすまそうとする。最後もめでたくエルネスティーナと結ばれるのではなく、裏切って出ていくそぶりを見せる。確かに現代においてこのオペラにリアリティを持たせるには、このような話にするしかないのかもしれない。ただ、こうなるととぼけた面白さが薄れてしまう。

 アントニオ・フォリアーニの指揮はメリハリがあってとてもいい。

 

モーツァルト 「魔笛」2017920日 コヴェント・ガーデン、ロイヤル・オペラ・ハウス

 とても充実した上演だと思う。歌手陣については、私はザラストロを歌ったミカ・カレスについて、なぜこの人がほかの素晴らしい歌手たちに交じって歌えているのか納得できなかった。恰幅はいいが、声が出ていないし、音程も怪しい。この日だけ絶不調だったのだろうか。タミーノのマウロ・ペーターは高貴で美しい声。パミーナのシボーン・スタッグは高音が驚くほど透明で美しい。パパゲーノのロデリック・ウィリアムズも声が美しく、しかも歌いまわしが正確なのに自在に歌っている雰囲気があってとてもいい。夜の女王のザビーヌ・ドゥヴィエルも素晴らしい。少し癖のある声だと思うが、音程もいいし、声の透明さも格別。透明な美声なのに魔女的な凄味がある。パパゲーナのクリスティーナ・ガンシュ、モノスタトスのピーター・ブロンダーも役柄になりきっての熱演。

 指揮はジュリア・ジョーンズ。女性指揮者だ。メリハリのはっきりした明確な指揮だと思う。くっきりと音楽が浮き立つ。ただ、第一幕の最後の部分など細かいところで乱れがあったように思うが、それは致し方ないだろう。

 デイヴィッド・マクヴィカーのオリジナル演出、再演演出がトーマス・ガットリーとなっている。覚えのある演出だが、とてもセンスがよく、観客から大きな笑い声が起こる。異様に反応の良い観客なのだが、なぜか一度も画面に客が映し出されない。まだコロナは流行していなかったはずなのに、何か事情があるのだろうか。

 ともあれ、「魔笛」のスタンダードとしてとても楽しめる高レベルの上演であることは間違いない。

 

フンパーディンク 「ヘンゼルとグレーテル」 2009年 ザルツブルク・マリオネット劇場

 ザルツブルク・マリオネット劇場劇団員による人形劇による「ヘンゼルとグレーテル」。ザルツブルク・マリオネット劇場に行ってみたことはあるが、公演はみていない。映像が販売されていたので購入してみた。

 音楽はとてもいい。イン・ボッカ・アル・ルーポ管弦楽団&少年少女合唱団、アンドレアス・シュラーの指揮だという。

 ヘンゼルのクリスティーナ・ナウデ、グレーテルのアネッテ・ダッシュ、父親のイェルク・ゴットシック、母親のマルティナ・ハンベルク=メビウス、魔女のギードレ・ポヴィライティテ、眠りの精の林田明子、露の精のビニ・リー。すべてそろっている。いずれもあまり芝居に没入した子供劇風の歌い方ではなく、明るい雰囲気のきれいな歌い方でとてもすっきり、あっさりと音楽が進んでいく。

 もし、日本でこのようなことをするとすれば、魔女はもっと魔女らしく、子どもたちはいかにも子供らしく歌うと思うのだが、そのような配慮はない。そのこと自体は私としてはうれしいのだが、確かにそうなると、表情の動かない人形に対して、大人としてはやはり感情移入できなくなる。遠くから見るのなら、観客一人一人が心の中で人形の表情を想像できるが、映像に大写しされて、それが無表情では、少なくとも私のようなひねくれものには音楽が届かなくなってしまう。

 どうやら私は子供向けの人形劇をリアルに感じる心性は持っていなかったようで、最後まで少々退屈だった。

 ところで、ヘンゼルとグレーテルの家の壁にワーグナーの肖像画がかけられている。遊び心ではあるだろうが、それにしても音楽家の肖像画がこのような貧しい家にあるなんて!と思わないでもない。しかし、ワーグナーはフンパーディンクの師匠なので、まあ言ってみれば、このヘンゼルとグレーテルにとっては「おじいちゃん」みたいなもの。おじいちゃんに肖像画がかかっていると思えば不自然ではない。しかし、こうして聴くと、「マイスタージンガー」と雰囲気の似たメロディがたくさん出てくる。

 

オッフェンバック 「ホフマン物語」2021年9月1922日 ハンブルク国立歌劇場

 NHKBSで放送されたもの。指揮はケント・ナガノ、演出はダニエレ・フィンツィ・パスカ。素晴らしい上演。指揮もいいし、演出も幻想的で美しい。

 まずなによりも、ホフマン役のバンジャマン・ベルネームと四人のヒロインをすべて歌うオルガ・ペレチャツコがあまりに素晴らしい。

 ベルネームについては今回初めて知った。かつてこの役で鳴らしたニール・シコフを思い出すようなしなやかでのびやかなホフマン。繊細な心の動きが伝わってくる。ペレチャツコも美しい声と容姿で四つの違った役も申し分なく歌う。とりわけアントニアの歌が美しい。

 ミューズ/ニクラウスを歌うアンジェラ・ブラウアーは、少し演技が硬いが、この役にぴったりの声で、まったく不満はない。ただ、リンドルフなどを歌うルカ・ピザローニについては、あまり声も出ていないし、フランス語の発音もあまりよくない。

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