オペラ彩 「カルメン」 今年も見事な上演
2021年12月18日、和光市民文化センターサンアゼリア大ホールでオペラ彩第38回定期公演「カルメン」をみた。
オペラ彩は特定非営利活動法人。これまで37回の自主製作オペラを公演してきた。私は一昨年、「ナブッコ」をみて驚嘆。昨年はコロナのために「カルメン」プレコンサートということになって本公演ができなかったが、今回めでたく「カルメン」上演が成った。今回も私はこの団体の実力のほどに目を見張ったのだった。
18日と19日のダブルキャストだが、歌手陣の知名度においてはかなり差がある。18日のメンバーのほとんどは私がこれまで何度も大劇場でみききした有名歌手たち、19日はあまり知られていないメンバーだった。
しかし、カルメンを歌った丹呉由利子は素晴らしい美声。第一幕の前半こそ、緊張した雰囲気で声が伸びなかったが、徐々に本調子になって、第一幕後半からは見事だった。ヴィブラートの少ない澄んだ声で、声量もたっぷり。容姿も含めて素晴らしい。ただ、演技の面については少し物足りなさを感じた。これでもう少し演技力がついたら、本当に素晴らしいカルメン歌手になるのではないか。
ホセの小野弘晴、ミカエラの東城弥恵、エスカミーリョの原田勇雅は大健闘。音程が怪しくなるところはあったが、しっかりと歌って見事にドラマを盛り上げていた。私はほかにフラスキータ役の本松三和とメルセデス役のはやかわ紀子にも魅力を感じた。しっかりした声で音程も安定していて心地よかった。小さな役の人たちも、そして合唱もみんながしっかりと歌って役をなしている。
ただ、かつてフランス文学を専攻していた私としては、フランス語の発音がかなり気になった。私のフランス語能力のせいもあるが、多くの人のフランス語を聞き取ることができなかった。歌の部分はもちろん、台詞の部分もフランス語らしい発音になっていないところもあり、それどころかフランス語ではありえない発音も聞こえてきた。きっと、上演がなされるのかどうかわからない、上演が決まってからも時間がない、ということでフランス語を覚えるのに十分な時間が取れなかったのだろう。時間内でできる限りの努力はしたのだろう。しかし、オペラや歌曲の基本は言葉の美しさを聴かせること、つまりは美しい発音を聴かせることだと思う。もう少しその点を重視してほしかった。
指揮は佐藤正浩。演奏はアンサンブル彩。初めのうちこそ、ぎこちなさを感じたが、歌手をしっかりとフォローしながら、ドラマを盛り上げていくところはさすが。第四幕はドラマを最高度に盛り上げた。演出は直井研二。オーソドックスでわかりやすいが、それぞれの幕の初めに天井から降ろされた赤い線の下でダンスを挿入。カルメンとホセの運命を暗示するような踊りがとても魅力的だった。
これほどまでのレベルのオペラを非営利団体が上演するのは並大抵の努力ではなかっただろう。とりわけ、コロナ禍の中、総合プロデューサーの和田タカ子さんは途方に暮れることの連続だっただろうと思う。その中での公演の成功を私自身うれしく思う。この団体の来年以降の活動が楽しみだ。
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