新国立「さまよえるオランダ人」 田崎の素晴らしいゼンタ、デスピノーサの特異な指揮
2022年1月29日、新国立劇場で「さまよえるオランダ人」をみた。新型コロナウイルス感染拡大による外国人入国停止により、予定されていた出演者のほとんどが来日できなくなって、歌手陣はすべて日本人に変更されての上演。そんなわけで、私としてはあまり期待をしないで出かけたのだった。
指揮はガエタノ・デスピノーサ。私は二度、N響の演奏を聴いて、素晴らしい指揮者だということはよく知っている。だが、序曲が始まって、やはり、ワーグナー好きの私としては「これはワーグナーではない!」と思わざるを得なかった。うねりがない。官能と形而上学的響きがない。てきぱきしすぎている。幕が上がってからも、舵手の鈴木准、ダーラントの妻屋秀和、オランダ人の河野鉄平はもちろん悪くないのだが、あわただしくて彫りの浅さを感じざるを得なかった。しかも演技が大げさで学芸会風に思えた。第一幕が終わった時点で、私はかなり不満を抱いていた。
音楽が生き生きとしてくるのを感じたのは第二幕に入ってからだった。糸車の合唱が美しい。マリーの山下牧子もしっかりした声でドラマを盛り上げる。そして、ゼンタの田崎尚美が登場してから、ワーグナーの世界が広がるようになった。見事な声。日本人離れしたものすごい声量。ゼンタにふさわしい清純さと強靭さを持っている。今回の公演でずば抜けていると思った。エリックの城宏憲も強さのある明るい声でとてもよかった。ゼンタとエリックの場面はうっとりするほど素晴らしかった。
第三幕になってからはもっと盛り上がった。三澤洋史の合唱指揮による新国立劇場合唱団が本領を発揮。息を飲むようなダイナミックな合唱になった。そして緊迫感あふれるオランダ人とゼンタとエリックのやり取り。私は第三幕に大いに感動した。最後は魂が震えた。
指揮については、確かに最後まで私が考えているようなワーグナーの音楽にはならなかった。むしろ、レオンカヴァッロのオペラのようなドラマの盛り上げ方だと思う。だが、それはそれでこれまでワーグナーの音楽では聴いたことがないような緊迫感が生まれる。これも素晴らしい演奏だと思った。東京交響楽団はホルンが時々裏返っていたが、全体的には緊迫感のある音を出してとてもよかった。
シュテークマンの演出については、永遠に回転する円環運動と、それをとどめようとするオランダ人という構図を明確にしようとしているのは面白く思ったが、全体的にはあまりにオーソドックス。
あまり期待しないで出かけたのだったが、田崎のゼンタ、デスピノーサの特異な指揮を聴けて満足した。
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