オペラ映像「ザザ」「レオノール」「ドン・ジョヴァンニ」
バタバタしていて音楽を聴く余裕がなく、コンサートも3回ほどパスした。やっと数日前から落ち着いてきた。この間に観たオペラ映像について感想を書く。
レオンカヴァッロ 「ザザ」 2020年9月 アン・デア・ウィーン劇場
以前、CDでは聴いたことがあったが、映像でみるのは初めて。実演をみたことはない。CDではあまり魅力的なオペラだとは思わなかったが、これほどのレベルの高い上演を映像でみると、とても良いオペラだと心から納得する。
舞台女優のザザはミーリオに恋をするが、その男には妻子があることを知り、泣く泣く別れる。それだけのストーリーだが、飲んだくれの母親に育てられて父親を知らないザザが天使のようなミーリオの娘に出会って、その子を自分のような目にあわせたくないと考える場面など実に感動的。音楽も「道化師」ほどにはドラマティックではないが、ひしひしと胸に迫る。とても良いオペラだと思う。めったに上演されないのがもったいない。
ザザを歌うスヴェトラーナ・アクセノワがこの可憐な役になりきってすばらしい。声も美しく、容姿もこの役にぴったり。色気があるが、気品があって、演技も見事。私はいっぺんにファンになった。ミーリオを歌うニコライ・シューコフも身勝手な男を見事に造形している。カスカールのクリストファー・モルトマン、ザザの母のエンケレイダ・シュコサも文句なし。
ステファン・ゾルテスの指揮するウィーン放送交響楽団も切れが良くてドラマを引っ張っていく。演出はクリストフ・ロイ。リアルな映画をみているようで、一つ一つの歌手たちの動きが完璧に音楽にマッチしている。
ガヴォー 「レオノール」2017年2月23日 ジェラルドW.リンチ劇場、ジョン・ジェイ・カレッジ(ニューヨーク)
ベートーヴェンの「フィデリオ」の前に同じ題材を用いたオペラがあったことは、ものの本を読んで知っていた。それが、フランスの作曲家ガヴォーによる「レオノール」。ベートーヴェンの「レオノーレ」の素晴らしい映像をみせてくれたオペラ・ラファイエット管弦楽団による演奏で商品化されていると知って購入。
驚くほど、ベートーヴェンのオペラと筋立ては似ている。細かいセリフは異なるが、場面構成はまったく同じ。こちらはフランス語だが、名前も基本的に同じ。
私は、初めてベートーヴェンの「フィデリオ」を聴いたころから、ロッコの歌う「お金の歌」の位置づけについて疑問に思っていた。ガヴォーのオペラを観て、初めて納得。第二幕で、ピザール(つまり、ピツァロ)がロック(つまり、ロッコ)に金を渡してレオノールとフロレスタンの始末を任せて立ち去る場面がある。お金に目のないロックがピザールの味方をするのではないかとひやひやさせておいて、結局、めでたく悪を懲らしめる結末になる。なるほど、この場面の布石としてお金のアリアがあったわけだ。
とはいえ、ベートーヴェンとガヴォーでは音楽の質に差がありすぎる。ガヴォーの音楽は他愛のないメロディが続くばかり。忘れ去られたオペラのほとんどがこのような音楽だったのだろうと納得するようなレベルだ。それでも、まあ聴いていて不快ではない。
歌手陣は素晴らしい。レオノールのキミィ・マクラーレンはこの役にふさわしい凛々しい容姿と美しい声。フロレスタンのジャン=ミシェル・リシェも高貴でしっかりした声で、この役にぴったり。ロックのトミスラフ・ラヴォワ、マルスリーヌのパスカル・ボーダン、ピザールのドニミク・コテ、ジァッキノのケヴェン・ゲデス、フェルナンのアレクサンドル・シルヴェストルもまったく非の打ち所がない。名前の知られてない若手中心のメンバーだが、実力は驚くほど。これほど適役で歌われると、十分に楽しめる。
ライアン・ブラウンの指揮によるオペラ・ラファイエット管弦楽団&合唱団も見事。ピリオド楽器が生き生きとしていて、若きベートーヴェンが目の前にいる気分になる。オリオール・トーマの演出もわかりやすくて、とても好感が持てる。
モーツァルト 「ドン・ジョヴァンニ」 2021年ザルツブルク音楽祭2021 (NHKの放送)
2021年、コロナ禍のさなかに開かれたザルツブルク音楽祭での上演。管弦楽・合唱はムジカエテルナ、指揮はテオドール・クルレンツィスということで、目覚ましい上演になるのは簡単に予想がつく。テレビ放送で見て、まさに予想通り、すごい演奏。
ソニーから出ているCDで「コシ・ファン・トゥッテ」と「フィガロの結婚」は驚嘆し、呆気にとられて聴いていたが、「ドン・ジョヴァンニ」はいっそう凄まじい。疾風怒濤の3時間半。阿鼻叫喚、魑魅魍魎などという四字熟語も使いたくなってくるほど聴く者の心の奥に切り込んでくる。まさにデモーニッシュなドラマにしあがっている。ただ、これで3時間半はかなり疲れる。みおわったときにはへとへとになっていた。
ロメオ・カステルッチの演出については、実はよくわからなかった。みんなが白っぽい現代の服を着て、ドン・ジョヴァンニとレポレッロは見分けがつかないほど似ており、マゼットも騎士団長も同じような服。人間なんてみんなどっこいどっこいの悪党ということだろうか。ドン・オッターヴィオだけはどうやらこの範疇に入らないようで、ひとりだけ時代を超越した奇怪な服装をしている。ドストエフスキーの「白痴」のような、神なき世界では高貴な人間は浮世離れした人間であらざるを得ないということだろうか。細かいところはよくわからない(読み替え演出が嫌いな私は、途中で読み取りを放棄した)が、要するに神なき世界の人間たちの欲望を赤裸々に描いた演出ということのようだ。
歌手陣はそろっている。一人一人の力量はもしかすると、それほどずば抜けているというわけではないのかもしれないが、クルレンツィスのオーケストラが絶妙に加わって、その歌の力を倍加しているのを感じる。ドン・ジョヴァンニのダヴィデ・ルチアーノ、レポレッロのヴィート・プリアンテはともに迫力ある歌唱。ドンナ・アンナのデジュダ・パブロワは高音が素晴らしく美しい。ドンナ・エルヴィーラのフェデリカ・ロンバルディはものすごい迫力。 ドン・オッターヴィオのマイケル・スパイアーズは高貴で美しい声。ツェルリーナのアンナ・ルチア・リヒターはとてもチャーミング、マゼットのダーヴィト・シュテフェンスも、従来の素朴な田舎者というよりも芯の強い男を歌う。
しかし、何といってもこれはクルレンツィスのあまりに凄まじい演奏を味わう上演だと思う。私はフルトヴェングラーの「ドン・ジョヴァンニ」(ザルツブルク音楽祭の映像や録音が残されている)が大好きだったが、クルレンツィスの指揮は、それ以上にデモーニッシュだった。
| 固定リンク
「音楽」カテゴリの記事
- 東京二期会「ファウストの劫罰」 素晴らしい演奏だが、フランス語が気になった(2025.12.13)
- フォン・オッターのクリスマスソング 気品にあふれる温かいクリスマスの歌!(2025.12.08)
- サーディのグリーグとフォーレとフランク 真面目なヴァイオリン!(2025.12.07)
- 下野&東響の第九 高貴な本格的第九!(2025.12.06)
- オペラ映像「ニーベルングの指環」「ルイーズ」(2025.12.01)

コメント