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東京春音楽祭「ローエングリン」 感動の震えが全身を走った

 202242日、東京文化会館で東京春音楽祭、ワーグナー「ローエングリン」全曲(演奏会形式)を聴いた。コロナのために、3年ぶりの東京春音楽祭のワーグナー・シリーズ。指揮はマレク・ヤノフスキ。

 素晴らしい演奏だった。まず、ヤノフスキの指揮がいい。濃厚なロマンティックな表現ではない。速いテンポできびきびとドラマを進めていく。官能性や思わせぶりの神秘性などはあまりないが、緊迫感にあふれている。第二幕のテルラムントとオルトルートのやり取りはぞくぞくするようなドラマがある。NHK交響楽団もしっかりと指揮について緻密で緊迫感のあふれる音を出している。第三幕の大団円の高揚も素晴らしかった。

 男性的できりりと引き締まったローエングリンとでもいうか。若いころ、私はこのような演奏はあまり好まず、もっとロマンティックで官能的で、どっぷりと感情に浸り、形而上学的な気分にうっとりするのが好きだったが、今はこのように知的でスマートな音楽のほうが好きだ。むしろ、無駄のないワーグナーの音楽が聞こえてくる気がした。

 まったく演出も映像も入らない純粋な演奏会形式だった。意味不明の読み替え演出に頭を使わなくて済むのはありがたい。音楽をじっくり味わえる。オーケストラが見えるのもうれしい。ワーグナーのオーケストレーションの巧みさも目で確かめることができる。

 歌手陣も高いレベルでそろっていた。ローエングリンのヴィンセント・ヴォルフシュタイナーは外見こそローエングリンらしくないが、声を出すと、高貴で若々しく、清潔な歌いっぷり。エルザのヨハンニ・フォン・オオストラムも清純な声でこの役にふさわしい。このオペラではしばしば主役二人は悪漢二人に食われてしまうが、そのようなことはなく、十分に主役の力を発揮していた。

 テルラムントはエギルス・シリンス。さすがの歌唱。気性の激しい妻に振り回されるプライドの高い男を見事に歌う。オルトルートは、エレーナ・ツィトコーワが歌う予定だったが、本人の都合で来日できない(ロシア人なので、もしかしたら、ウクライナ侵攻と関係があるのか?)ということで、アンナ・マリア・キウリに変更になった。ツィトコーワを聴けないのはとても残念だったが、キウリも迫力のある声で、この役をしっかりと歌っていた。

 ハインリヒ王はタレク・ナズミ。まだ若い歌手だと思うが、見事なバスの声で、申し分なかった。きっとこれからどんどんと重要な役を任せられるようになるだろう。伝令のリヴュー・ホレンダーも文句なし。全員が音程の良い美声で安心して聴いていられた。

 しばしば感動の震えが全身を走った。ワーグナーは本当に素晴らしい。久しぶりにワーグナーの実演を聴けて幸せだった。

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