エッシェンバッハ&N響のベートーヴェン第7番に感動
2022年4月9日、東京芸術劇場コンサートホールでNHK交響楽団定期演奏会を聴いた。指揮はクリストフ・エッシェンバッハ、曲目は、前半にドヴォルザークの序曲「謝肉祭」と、フルートのスタティス・カラパノスが加わってモーツァルトのフルート協奏曲第1番、後半にベートーヴェンの交響曲第7番。素晴らしい演奏だった。
「謝肉祭」は、まさに祝祭感にあふれていた。躁状態とでもいうか。だが、そこにドヴォルザークらしい人懐っこいメロディがあるので、懐かしい気持ちになる。N響の音もびしりと決まった。
フルート協奏曲もとてもよい演奏だった。フルートの音が研ぎ澄まされていて、輪郭がしっかりしている。ただ、モーツァルト若書きのこの曲は、もっともっとのびのびと吹いた方がよかったのではないかと、個人的には思った。フルート・ソロのアンコールは「シランクス」。とても美しく潤いのある演奏だった。この人はこのようなニュアンス豊かな音色のほうがよさが出るのではないかと思った。
後半のベートーヴェンの交響曲第7番は素晴らしかった。ところどころ特徴的な音の切り方を示していたり、チェロのフォルティシモの部分で弦に弓の付け根を当てて音を出させたりしていたが、全体的にはきわめてオーソドックスで、際立った誇張はなく、目覚ましい解釈があるわけではない。しかし、スケールが大きいのに、一つ一つの音がニュアンスにあふれており、音の重ね方、リズムの取り方、強弱の付け方が絶妙で、ホール全体が高揚していく。私は何度か感動に震えた。
私は小学校のころからベートーヴェンの交響曲が大好きだったが、実は第7番は扇情的すぎてあまり好きになれなかった。どうしても、こけおどしに思えてしまう。今でも、演奏によってはかなり空疎な気がすることがある。素人の私にはどこがどう違うのかまったくわからないのだが、エッシェンバッハの演奏は、まったくそのような印象は抱かず、生身の人間の思想と感情が迫ってきた。
とても満足。ベートーヴェンは凄い。
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コメント
私は翌日行きました。ベートーヴェンの7番、よかったですね。私は食傷気味の曲が何曲かあり、その筆頭格がベートーヴェンの7番なのですが(シューマンのピアノ協奏曲がそれに続きます)、それが思いもかけず神々しく聞こえました。
投稿: Eno | 2022年4月11日 (月) 15時30分
Eno 様
コメント、ありがとうございます。
ブログを拝見しました。とても共鳴いたしました。私も同じように思って聴いていた気がします。
Eno様がおっしゃる「食傷気味」と、私の言う「こけおどし」はもしかしたら同じようなものかもしれません。私はしばしばこの曲を聴くと、「もういいよ。しばらくほっといてくれよ。そんなに大袈裟に煽られても、おれは乗らないよ」という気になるのです。ところが、先ごろの演奏は、魂の奥にビシビシと届き、深く感動したのでした。
投稿: 樋口裕一 | 2022年4月12日 (火) 08時26分